第49話 自白
どうして……
ドラガンはクレピーの顔をじっと見つめた。
クレピーは俯いたまま黙っている。
「私も理由が聞きたいな。そうでないと、お前を世話係に選んだ我々が疑われる事になる」
ヴァーレンダー公が険しい表情で言った。
「申し訳ございません……」
クレピーの口から、そう発せられたような気がする。
だがその場の全員が聞き取れなかった。
「自分の口で言えないなら、私が調査した結果を話しても良いがどうする?」
静寂が続く中、家宰ロヴィーがそう提案した。
それに対しクレピーは何の反応もしなかった。
ロヴィーはそれが回答だと判断したらしい。
「執事の中に奴らに通じている者がおり、クレピーは、その者に弱みを握られていたのです。だが情報を提供していた事には違いはなく、主犯では無いが共犯という感じであったようです」
ロヴィーがそこまで報告すると、ヴァーレンダー公は短く、何時からだと聞いた。
聞いた相手はクレピーだったのだが、クレピーが黙っているのでロヴィーが回答した。
「エモーナ村に行って、帰って来てからのようです。帰ってすぐに弱みを握られ、そこから彼らに協力していたようです。どうやらペティア様の誘拐事件にも関与しているようです」
ロヴィーはクレピーをじっと見ながらそう報告した。
「だけどあの時、クレピーさんは宿泊所の対策本部で、ずっと捜索情報の精査を行ってましたよね?」
ドラガンがそこまで言うと、アルディノがそう言えばと言い出した。
「あんたあの時、何遍か総督府に報告に行く言うて、わしに対策本部を任せとったな。そうか、あの時に仲間に連絡を入れとったのか」
ドラガンとザレシエが竜産協会の支部へ向かった時の話、そうアルディノは言った。
「あの時、竜産協会の支部長スサニノに何者かが連絡を入れた。それでスサニノはブシク総長宅へ向かった。恐らくその情報を漏らしたのがクレピーだったのでしょう」
ロヴィーはそう推論を述べた。
あの時明らかに陽動と思われる偽情報があった。
それもこいつが情報の中から意図的に抽出して憲兵隊を惑わしたのだろう。
あの時にこの事に気付いていれば、こんな奴に対策本部を任せはしなかったのに。
ロヴィーは机を叩いて悔しがった。
「だけど、そこまでの『弱み』って何なんです?」
ドラガンの疑問にヴァーレンダー公とアルディノがそれだなと言い合った。
「……最初は些細な事だったんです」
クレピーは呟くように言った。
「アルシュタに帰って来て、その日に仲の良かった執事と呑みに行って、そこでサファグンの女性が美人揃いだったという話で盛り上がったんです」
翌日、目つきの悪い執事が近寄ってきて、突然、エモーナ村ではお愉しみだったそうだと言ってきた。
その執事はスニジネと名乗りました。
酒場の話を聞かれていたのかと一瞬思ったのだが、親しい執事以外その店に執事はいなかったはず。
一緒に呑みに行った執事を問いつめたが、誰にも漏らしていないと言い張った。
翌日、スニジネは話があるから酒場に来いと言って来た。
その酒場は親しい執事と呑んだ酒場だった。
酒場に入ると、そこにはスニジネの他に数人の仲間が待っていた。
その一人には見覚えがある。
資源管理部の竜資源課長をしているイジュームとかいう人である。
まずは一杯やろう。
そう言ってイジューム課長は酒を持ってくるように命じた。
すると薄着のサファグンが人数分の酒を持ってきた。
スニジネは、エモーナ村というところで、だいぶ仕事を忘れて遊んでたようだなと言い出した。
今にして思えば、あれはあの男の引っかけだったのだろう。
だがそれに過剰な反応を示してしまった。
「この事がロヴィーのやつの耳に入ったら、お前は更迭だろうな」
スニジネはニヤニヤしながらそう言ってきた。
ちょうどペティアさんから色々相談に乗って欲しいとお願いされたばかりで、ここで更迭されるわけにはいかないと焦ってしまった。
「俺たちに協力しないか? 何、大した事じゃない。カーリクという者たちの情報を流してくれるだけで良い。何ならさっきのサファグンを好きにさせてやるぞ?」
そう誘いを受けた。
後から知ったのは、その執事が竜産協会の本部から派遣されている人物だという事。
「私は彼らの誘いに落ちてしまったのです。翌日から、日中はカーリクさんたちの世話をし、夜はスニジネに情報を流してサファグンの女性と過ごす、そんな生活を送っていました」
まさかそれが、あんな事態を引き起こす事になるなんて……
ペティアさんが誘拐された事を知った時、話が違うと思いました。
ですが、ロヴィーに連れられ対策本部を任され彼らを問い詰める事ができなかった。
すると例のスニジネが捜索隊に入り込んでいる事がわかった。
そこで奴を問い詰めた。
「お前はもう俺たちの仲間だろうが! 殺されたくなければ俺の言う通りにしろ!」
奴が持ってきた漁港近くで冒険者の遺品が見つかったという情報を、あたかも真実味があるように報告。
捜査を攪乱した。
その後、何度もスニジネは情報を聞き出しに来た。
その結果、ペティアさんは重度の麻薬中毒になって帰って来た。
激しく後悔したが、もう奴らとの関係は後戻りのできないところに来ていた。
「竜産協会の支部は潰れ、競竜場は閉鎖。お前がここまで無能だとは思わなかったよ。お前が可愛がってたサファグンも憲兵隊に取り上げられちまった。せいぜい、あの女が余計なことを喋らない事を祈るんだな」
そう言われ、何とかして欲しいとお願いした。
するとスニジネは、何とかしてやる、仲間じゃないかと言って笑った。
ただし協力は続けてもらう。
竜産協会の本部は、あのドラガン・カーリクを始末したいと考えている。
だから私用で外に出る機会があったらその情報を流せ。
「お前だって、あのペティアとかいうサファグンを自分のものにできたらって思うだろ? カーリクがいなくなれば、お前のものにできるかもしれんぞ?」
可愛がっていたサファグンの女性が憲兵隊の詰所で首吊り自殺した事を知ったのはピクニックの情報を流したすぐ後の事でした。
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