第48話 漏洩
宿泊所に戻ってから六人は温かい飲み物を飲んだ。
無事帰って来れた。
飲み物が心に沁み安堵感が襲って来る。
ふいにレシアがぽろりと涙を零した。
「私が……ピクニックに行こうなんて言い出したから……」
そう言うとレシアは、机に伏せてわんわん泣き出してしまった。
レシアのせいじゃない。
みんなで決めた事。
せっかくのピクニックを台無しにされて私たちも怒っている。
そう言って皆で慰めたのだが、レシアは私のせいと言って泣き続けている。
アルディノはレシアの隣に座るドラガンに顎で何か合図をしている。
ドラガンは困り顔で優しく背中を撫でた。
「レシア、怖かったね。僕も怖かった。だけど今は泣く時じゃないよ。無事ここに戻って来れた事を喜ぼうよ。じゃなきゃ僕たちを守って亡くなった人たちが浮かばれないよ」
ドラガンの言葉にレシアは顔を上げた。
レシアは瞳を潤ませ赤い鼻をすすって小さく頷いた。
「お弁当……みんなでわいわい食べるはずだったのに……」
レシアが、また涙を流した。
ドラガンが無言で頭を撫でると、レシアはドラガンに抱き着いてわんわん泣いた。
確かに昨日の朝、弁当を作っていた時は本当に楽しかった。
あの時みんなが執事や冒険者の人たちが喜んで弁当を頬張っている姿を想像していた。
レシアが泣き出すのも無理はない。
「今度はみんなでお弁当を作って釣りに行きましょうよ」
そうペティアが言うとベアトリスも良いわねと賛同した。
アルディノが船酔いは大丈夫なのかと聞くと、ベアトリスは非常に嫌な顔をした。
そんな雰囲気の中、ザレシエは一人無言で何かをじっと考えていた。
翌々日、ドラガンたちは総督府に呼ばれる事になった。
名目は食事会。
公爵妃のアリーナが事件の事を知り、いたく心配しているから元気な顔を見せてあげて欲しいという要望であった。
だが総督府に入ると、ドラガンたち男性と、ベアトリスたち女性で別々の部屋に通される事になった。
ドラガンたちが通された部屋には、ピクニックに同行した三人と家宰のロヴィーが待っていた。
そこにヴァーレンダー公が入室してきた。
「そなたたちだけでも無事で良かったよ」
ヴァーレンダー公はドラガンの肩にそっと手を置くと、ザレシエ、アルディノと顔を見ていった。
ヴァーレンダー公が席に着くと執事が飲み物とお菓子を持ってきた。
まずは、ここまで判明している事をロヴィーが報告した。
襲撃者は恐らく竜産協会の残党である事。
そして万事屋もそれに協力しているであろう事。
さらに残党の中にはグレムリンがいるという事。
「恐らくは先日の竜産協会の支部を潰された恨みでは無いかと思われます。これも憶測ですが、カーリク様たちが関わっていたという事を何かしらで知ったのでしょう」
恐らくは前憲兵総監、もしくはその一派から残党にその事が漏れたのだと推測される。
だが、そんな彼らも今回のピクニックの話までは仕入れられないはず。
となると、万事屋から諸々の情報が竜産協会の残党へと流れているという仮説ができる。
生き残った冒険者が何かしら手引きをしていたとしても不思議ではないだろう。
ロヴィーがそこまで報告すると、皆の視線は生き残りの冒険者二人へと注がれた。
「俺じゃない……俺は知らない。俺はただ、万事屋から紹介を受けただけで……」
冒険者の一人イボットが椅子から立ち上がり、一歩、また一歩と後ずさった。
ニヴァは無言で首を横に振り続けている。
「ずいぶんと競竜で借金を作ってるそうですね。あなたに金を貸して仕事を斡旋していた布団屋は、今、憲兵隊が取り調べをしていますよ」
ロヴィーの指摘にも、椅子に腰かけたニヴァは壊れた玩具のように無言で首を横に振り続けている。
ドラガンたち、ヴァーレンダー公、ロヴィー、クレピー、イボット、七人の視線がニヴァに向け続けられている。
「喋ってしまったらどうだ。別に庇うほどの価値のある者たちではあるまい」
ヴァーレンダー公の低く威圧的な声にニヴァは観念した。
万事屋の主人から、自然公園に着いたら護衛対象を離れ襲撃者を案内するように指示を受けていた。
サファグンの女性を警護している途中で、トイレに行く振りをして襲撃者に会い場所を知らせた。
ニヴァは椅子を離れ床に座り、膝を屈してそう白状した。
あの時かとアルディノが呟いた。
ヴァーレンダー公とロヴィーは顔を見合わせ大きくため息をついた。
「ですけども、今の話やと、それだけであの襲撃ができるはずはないですよね。もっと前々から色々情報が洩れてへんと」
ザレシエの発言にロヴィーが大きく頷いた。
「そう言うって事は誰かしら目星は付いているという事ですか?」
ロヴィーの問いかけにザレシエは小さく頷いた。
「私も色々可能性を模索したんですけどね。その人やったら全てがしっくりくるんですわ」
ザレシエは、ゆっくりとその人物の方に顔を向けた。
ドラガンとアルディノは、かなり驚いた顔でその人物を見た。
「どういう事なんやクレピーさん。何でうちらを売ったんや」
ザレシエに名指しされ、クレピーは唇を噛んで黙って俯いた。
ロヴィーとヴァーレンダー公は顔を見合わせている。
「ちょっと待ってよ、ザレシエ。クレピーさんはエモーナ村にも来てくれてて、今までずっと僕たちにも良くしてくれてたじゃない。何でそんな人が僕たちに危害を加えるんだよ」
ドラガンはザレシエの肩を掴んで、何を言ってるんだという風に言った。
せめて理由を聞かせて欲しい。
そう要求した。
「恐らくですけど、うちらが竜産協会の支部の捜査に参加した事は襲撃者たちは知らないはずなんです。それと先日のピクニックの日程も。それが向こうにバレてるいう事は極めて近しい人が漏らしてるとしか」
ザレシエの説明にドラガンはまだ納得いかないという顔をしている。
「だからってクレピーさんとは限らないじゃない。他の執事さんかも……」
そんなドラガンの淡い期待をロヴィーが打ち壊した。
「残念ですが、私の調査でも漏らしたのはクレピーだという事がわかっています」
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