第45話 再会

 アテニツァの話によると、今アルディノが向かっている集落はアテニツァたちトロルの居住区らしい。


「今まで、ご挨拶さ伺えず申し訳ねがったです」


 アテニツァは、そう言うと深々と頭を下げた。

ペティアは久しぶりと言って頭を撫で、レシアも久しぶりと言って手を握った。


「今までどうしてたの? 何かやりたい事ができたっていうのは聞いてたんだけど」


 ドラガンの問いかけに、アテニツァは恥ずかしそうに後頭部を掻いた。


 アテニツァは、アルシュタに帰ってきてすぐに自宅のある集落へと戻ったらしい。

アテニツァのやりたい事、それは武芸を身に付ける事だった。

決して頭が良いわけでもない、頭が切れるわけでもない、そんな自分にできる事、そう考えた時に思い出したのはトロルの武芸者ステファン・マクレシュだった。


 マクレシュは元々冒険者をしており、愛用のげきで数々の危険生物を串刺しにしてきた。

何年か前に冒険者を引退し、集落に戻って子供たち相手に武芸を教えて生計を立てている。


 マクレシュならきっと一人前になれるくらい武芸を仕込んでくれるはず。

そう思って家の門を叩いた。

だが弟子を取る気は無いと無碍に断られてしまった。

それでもめげずに三日間毎日家を訪ね、やっと弟子にしてもらった。

そこから毎日野生生物を狩り、それを街の解体屋に売って生計を立てながら武芸を磨いていた。


 アテニツァにはドゥシャン・クレニケという弟分がいる。

幼少期から実の兄弟のように親しい間柄の人物である。

昨年学校を卒業し万事屋で冒険者をしていたのだが、仕事の誘いは乏しかったらしい。


 兄貴分のアテニツァがマクレシュの弟子になったとトロルのコミュニティで聞き、急いで集落に戻って来た。

そこから一緒に武芸の稽古を始めたのだそうだ。


 今日も朝から森の中で『牙猪』というモンスターを狩り、師匠と手合わせを行い、弟子同士で手合わせを行っていた。

そろそろ暗くなるから帰るとしよう。

その帰り道に人が襲われているのが見えたのだそうだ。


「何だかアテニツァ、前より少し逞しくなったように見えるね」


 ドラガンがそう言ってアテニツァの腕をさすると、ペティアとレシアも同じように背中をさすった。

アテニツァは終始照れっぱなしである。



「とごろで、こいづら何者なんだ?」


 アテニツァの弟分クレニケが、地面に倒れ絶命しているグレムリンの羽を掴んで持ち上げた。

弟子の疑問に、グレムリンだとマクレシュが短く答えた。

一応亜人とされているが、人語がわかるというだけで『猿鬼ゴブリン』と変わらぬ、どうしようもない奴らだ。

そう説明した。


「だが、なすて、こごさグレムリンがいるんだ?」


 マクレシュはそう言って腕を組んだ。


 理由はわからない。

目的もわからない。

だが自然公園で突然命を狙われた。

今も自然公園には死体が多数転がっている

そうドラガンは状況を話した。


「こいつらアルシュタの万事屋に登録してる冒険者ですね。万事屋の登録証を持ってます」


 イボットが、そう言って冒険者の死体のポケットから小さな鉄の板を取り出した。


 万事屋がどうして?

誰かがそう呟いた時だった。


 ベアトリスのお腹が可愛い悲鳴をあげた。




 一行は、アテニツァ、マクレシュ、クレニケに護衛され、襲撃現場からトロルの集落へと向かっている。


 ベアトリスは未だに顔が真っ赤である。

昼を食べ損ねたんだから仕方ないとザレシエは慰めているのだが、ベアトリスは涙目で睨んでいる。

ペティアが、こういう時は放っておいてあげてとザレシエを窘めた。



 集落にたどり着くと、こちらはこちらで中々に酷い事になっていた。

どうやら集落の方も襲撃者に襲われたらしい。

撃退はしたものの負傷者がかなり出ている。


 アルディノとクレピーも襲撃者の仲間と勘違いされたらしい。

縛られて木に吊るされている。




 六人はアテニツァの案内で、アテニツァの一番上の姉の家に行った。

クレピーと二人の冒険者は、アテニツァの真ん中の姉の家にお邪魔する事になった。

マクレシュとクレニケは自宅に帰った。


 アテニツァには三人の姉がいる。

三人とも既婚で、上の姉と真ん中の姉には子供もいる。

アテニツァの姉は六人にスープとパンを持ってくると、口に合えば良いけどと言ってはにかんだ。


 トロルの料理は味付けが非常に強く、正直、六人の好みの味とは言い難かった。

だが空腹は最大の調味料とはよく言ったもので、全員見事に平らげた。

あまりの食べっぷりに、アテニツァの姉はクスクス笑っている。


 腹が満たされると、かなり精神的にも落ち着くものらしい。

六人は、アテニツァ、アテニツァの姉、夫、娘の四人と、わいわいと話し込んでいた。

すると、にわかに外が騒がしくなった。



 まさか夜襲だろうか?

六人に再度緊張が走る。

念の為。

そう言ってザレシエとアテニツァの二人で外の様子を見に行くことになった。



「しかし、一体あいつら何者なんじゃろう? なして、こがいに執拗にわしらを付け狙うんじゃろ?」


 アルディノが疑問を口にした。


「恐らくは竜産協会の関係者だと思う」


 以前、毒沼に行った時に、途中でグレムリンの話を聞いた。

どうやらヴァーレンダー公はグレムリンの拠点を潰そうとして失敗したらしい。

そうドラガンが説明すると、支部を潰された恨みかとアルディノが呟いた。


「だけどあいつらが竜産協会なんやとして、何で私らが今日自然公園に行く事がわかったんやろ? 万事屋から洩れたんやとして、そんなにすぐに人数集めて行動に移せるもんなんやろか?」


 ベアトリスの指摘にドラガンとアルディノは言われてみればと言い合った。



 そこにザレシエが戻って来た。


「ご安心ください。ヴァーレンダー公の使いの方でした。うちら帰って来へんから、血相変えて探しに来たみたいです」

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