第44話 援軍

 あれから二度の襲撃を受けている。

襲撃と言っても敵の姿は見えず木陰からの狙撃である。


 二度目の襲撃で執事の一人が右腕を射抜かれ負傷してしまった。

果たして集落まで無事たどり着けるかどうか。

徐々にそんな雰囲気が漂い始めてきている。


 時折ベアトリスとザレシエが敵の姿を見つけるらしく、その都度弓を絞って狙撃してはいる。

だが、周囲の木々に阻まれ上手く当たらないか、当たっても致命傷になっていないらしい。

すぐに逃げて行ってしまう。



 ここまでペティアは何とか付いて来てはいた。

だが徐々に息が荒くなり、ついに歩けなくなってしまった。

そもそも、ここまで付いて来れた事が奇跡だったかもしれない。

恐らく、ペティアとしも必死に食らいついて来たのだろう。


 皆、昼食も取らず、ここまでで疲労が蓄積している。

その為、ペティアを担いでいくというわけにもいかない。


「ここからやと、集落まで後どんだけかかるんやろ?」


 ベアトリスが執事たちに尋ねた。

そろそろ見えてきてもおかしくないくらいの距離、そう執事の一人が答えた。

それならもう少しだけ頑張って欲しいと言いたいところだが、今のペティアを見るとそんな事は到底言い出せなかった。


「しかし、何でここまで人に会わへんのやろう。そっちも、だいぶ気になるんやけど」


 ザレシエの疑問に、皆そう言えばと言い出した。

もしかして集落が既に襲われているのか。

まさかその集落が襲撃者のアジトなのではないか。

そういう悪い予想が執事や冒険者たちの口から漏れ出した。


「先行で集落に行って様子を見てくる必要があるかもしれない」


 ドラガンの提案にアルディノが賛同した。

ザレシエとベアトリスも賛同すると、では誰が行くかという話になった。


 一人は執事。

土地勘のある者という事でそこは問題が無い。

一人はクレピーですんなりと決まった。

問題はもう一人。

クレピーはそこまで武芸が達者というわけでは無い。

そこでもう一人はアルディノが行く事になった。


 二人はすぐに街道を西へと向かって行った。




「どうにも何かがおかしい。どうやら自分たちは命を狙われとるらしい」


 ザレシエはドラガンに言った。

何を急に言い出したのとベアトリスが笑い出した。

今までの状況考えたらそうにしか思えない。


「何の為に? 自分たちはカーリクさんに付いて来ただけで、アルシュタに対して何も敵対するような事はしてへんぞ?」


 ザレシエの指摘に、ベアトリスとドラガンは、そう言えばと言って顔を見合わせた。


 もし襲撃者がヴァーレンダー公に敵対している奴らだとしても、なぜ標的が自分たちなのだろう?

竜産協会の支部の捜査に協力したことは市井の人は知らないはずで、少なくともこのような命を狙われるような事はしていないはず。


「……竜産協会?」


 ドラガンの呟きに、ザレシエも可能性はあると頷いた。


「だけど彼らは、ほぼ全てが憲兵隊に拘禁されとるはずで、うちらが今日、自然公園に行くいう事までは知らんのと違いますかね?」


 ザレシエの指摘に一同はでは誰がと言い合った。


「万事屋の親父が漏らしたのかもしれません。あの人は、それなりに裏社会にも通じてるみたいですから」



 イボットがそう言った時だった。

一本の矢がドラガンたち目掛けて飛んできた。


 イボットが咄嗟に手刀で矢を打ち落とす。

執事たちは一斉に武器を抜き、ドラガンたちの前に立ちはだかる。

イボットとニヴァも武器を抜き、ペティアを囲むように位置取った。


「キシャー!!!」


 雄たけびと共に付近の木陰から見た事も無いモンスターが現れた。

一匹、二匹、三匹……六匹!

目が異常に大きく、肌が紫かかっている。

背は小さく、背に蝙蝠のような羽が生えている。

短剣を両手に持ち飛び跳ねている。


 さらにそれと同数の人間。

こちらは顔を布で覆い、背に弓を背負い、両刃剣を手にしている。



 こちらは九人、向こうは十二人。

ただしこちらは四人が戦力外。

実質、五対十二。

圧倒的に不利である。



「オマエラ、コロス、メイレイ、コロス」


 モンスターのような生物が、そう言って、再度キシャーという雄たけびをあげた。


「グレムリン!!!」


 執事の一人がそう叫んだ。

グレムリンたちは一斉にその執事に襲い掛かる。

だが執事もそれなりに武芸には心得がある。

グレムリンたちの短剣を上手に両刃剣でかわしていく。


 イボットが執事の横に立ち、グレムリンを横から斬ろうとする。

襲撃者の人間が弓を構え、イボットを射抜こうと狙いを定める。

襲撃者より早く、ザレシエが襲撃者の腕を射抜く。


 グレムリンは執事の腿に短剣を突き付けた。

執事が片膝をつく。

そこに二匹のグレムリンが襲い掛かり首筋を斬りつけた。


 ドラガンの前の執事が倒れ、ドラガンはグレムリンと目が合った。


「キシャー!!」


 グレムリン三人がドラガンににじり寄って来る。

ザレシエが後ろの襲撃者を、また一人射抜いた。

それに気付いたグレムリンは一斉にザレシエに襲い掛かる。


「させるか!!!」


 執事の一人が、ザレシエの前に立ちはだかる。

剣をぶんぶん振ってグレムリンを牽制する。

グレムリンは、短剣を執事の足に向かって投げる。

足の甲を短剣が貫き、執事はしゃがみ込んでしまう。

三人のグレムリンが一斉に執事に襲い掛かる。

もう一人の執事も全身を短剣で刺され絶命した。


 七対十。

もはや劣勢は覆せない。

ザレシエはそう覚悟した。


 その時だった。


 何かが回転しながらグレムリンに向かって飛んでくる。

その回転してきたものは一体のグレムリンの胸をスパッと切り裂いた。


「あんだら、大丈夫だが?」


 木陰の奥から、そう声がした。


 トロルが三人。

一人は見覚えがある。


「アテニツァ! アテニツァじゃないか!」


 ドラガンはトロルの一人に向かって叫んだ。


「カーリクさんじゃねえか! 何でこいなとごろで?」


 アテニツァは慌てて駆け寄ってきて、手にした鉞で瞬時に一人の冒険者を斬り殺す。

別のトロルが地面に突き刺さった板斧を拾うと、先ほど怪我を負ったグレムリンを一人仕留めた。

さらにもう一人のトロルが戟を振り回し、冒険者二人を一瞬で刺し殺した。



 襲撃者は舌打ちして一目散に逃げていった。

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