第43話 襲撃
矢の飛来が止むと、ザレシエたちは急いで鉄がぶつかったような音のした方向へと走った。
大きな木を背にペティアが立っている。
その服は所々破れてしまっている。
そのペティアを守るようにクレピーが剣を構えて立っている。
その隣にドラガン。
ドラガンの前に銀髪の冒険者が立っている。
四人を守るようにもう一人の赤髪の冒険者とアルディノが立っている。
アルディノは、ペティアの使っていたイーゼルの中央の棒に短剣を括り付け、簡易に銛のようなものを作って襲撃者を牽制している。
銀髪の冒険者は片刃刀を両手に握り牽制している。
どうやら一人で奮闘していたと見える。
無数の切り傷があり血まみれである。
襲撃者は七人いるだろうか。
血まみれとなりながら銀髪の冒険者が三人を相手に奮闘。
残り四人のうち二人をアルディノが牽制。
残る二人を、それぞれクレピーと赤髪の冒険者が相手している。
一人の襲撃者が赤髪の冒険者とアルディノの間からドラガンを攻撃しようとした。
アルディノがそれを阻止しようと体を向けると、別の襲撃者がアルディノに斬りかかろうとした。
アルディノは咄嗟に棒で後ろからの攻撃を弾き、目の前の襲撃者に対処しようとする。
だがその攻撃が外れた。
まずい!
そう思った銀髪の冒険者が、その襲撃者の前に体を移動させ盾になろうとした。
だが、それを待っていたかのように目の前の三人の襲撃者に一斉に剣を突き立てられた。
銀髪の冒険者は刀をぽろりと落とし、その場に倒れた。
これで五対七。
いや、実質三対七だろうか。
何かを覚悟し、アルディノは銛を腰から後ろ下げるように構える。
前方からは無防備にも見えるだろう。
目の前の五人を睨みつけながら、少しづつ後ろに下がった。
アルディノの意図にドラガンも気付いたらしい。
ドラガンも少し位置を後ろに下げペティアと横並びになった。
これでアルディノは、一対五から三対七になり多少は形勢を立て直せた。
圧倒的不利には変わりないが。
一人の襲撃者がアルディノを攻撃してくる。
だがアルディノはその剣を銛の柄で横に弾き、無防備になったところに反転させた銛を真っ直ぐ突き立てた。
襲撃者は銛に突けられた短剣に肩を切り裂かれ後ろに引き下がった。
アルディノは先ほどの位置に戻り、再度同じ構えを取った。
これで三対六。
だが今の攻撃で銛の柄にひびが入ったらしい。
次の攻撃は防ぎきれないかもしれない。
万事休す……
突然、目の前の襲撃者の肩に一本の矢が突き刺さった。
襲撃者の一人が矢の飛んできた方向に顔を向ける。
アルディノはそれを見逃さない。
構えていた銛を勢いよく突き付ける。
銛は襲撃者の頬を切り裂き、鮮血を吹き出させた。
残念ながらそこで銛は限界を迎え柄が折れてしまった。
アルディノは倒れた銀髪の冒険者の手から片刃刀を拾い上げると、立ち上がる勢いで襲撃者を斬りつけようとした。
だがそこは慣れない武器、刃は大きく空を斬る。
そこに二本目の矢が飛んできて襲撃者の腕に突き刺さった。
どうやら、その襲撃者がリーダー格だったらしい。
他の襲撃者に撤退の合図を送った。
「大丈夫か!」
執事の一人が駆け寄って、ドラガンたちを見て胸を撫で下ろした。
だが倒れた血まみれの冒険者を見て、顔は悲痛なものに変わった。
駆け寄って来たイボットは銀髪の冒険者をスヴィルジと呼んで号泣した。
ひとまず安全に場所に。
そう言い合い、亡くなったスヴィルジを担いで竜車へと戻った。
そこで一向は絶望する事になる。
竜車の竜が襲撃者に殺害されていたのだった。
さらに一般の来場者も殺害されて、無残にもそこかしこに横たわっている。
管理小屋を覗くと、管理人たちも全員殺害されていた。
一頭でも竜が生き残っていればと淡い希望を抱いたのだが、残念ながら竜車の竜は全て殺害されていた。
これでは帰ろうにも帰れない。
だが、だとしても、ここにいて周囲が暗くなってしまったら、もはや襲撃者たちに身を委ねるのと変わらない。
方針は二つ。
管理小屋をしっかり戸締りし夜中の襲撃に耐える。
もう一つは生き残った者だけで最も近い集落まで逃げる。
「非戦闘員四人は、さすがに守り切れる気がしないな」
先ほどドラガンの身を守っていた赤髪の冒険者ニヴァがそう言った。
スヴィルジがいればまだしもと、イボットも首を横に振る。
執事たちも一同を見まわし無言で頷いた。
「十全に武器があればそれも可能だろうけど、護身用の剣くらいしか無い状況で、籠城戦は少し無理があると思う」
ザレシエとアルディノは戦力になるとしても、何人に襲われるかわからない状態ではと、執事の一人が言った。
しかも執事の一人とアルディノは怪我をしている。
「ここから近くの集落まで、どの程度かかるんやろう?」
ザレシエの質問に、執事は顔を見合わせ、それなりに距離はあると答えた。
今から歩いて行くと、もしかするとギリギリ陽が落ちてしまうかもしれない。
「だけどこの小屋だと、火をかけられたらどうにもならないと思う。僕は近くの集落に向かう方に賛成かな」
ドラガンの懸念は、説得力がかなり高かった。
間違いなく途中の道で襲撃されるだろう。
だが、それよりも火で焼かれるよりは生き残る可能性は高いだろう。
一同は頷き合い、出立の準備を開始した。
まずは小屋の中の薬箱で手当をして、武器になりそうなものを探そうという事になった。
さすがにあちこちに散乱した死体をそのままにするわけにもいかず、一体一体、小屋まで抱えてきた。
一人くらい生きた者がいないかと期待したのだが、残念ながら全員亡くなっていた。
場所柄的に小さい子も多いのだが、全員容赦なく殺害されている。
レシアとペティア、ベアトリスはそれを見てポロポロと涙を流した。
竜車の竜も、そのままでは夜間に獣たちの餌になってしまう。
だがさすがに、これ以上逃げるのが遅くなると集落に到達する前に陽が落ちてしまうと、執事たちから指摘され、やむなく放置する事になった。
一行は竜車から護身用の武器を取り出すと、アルシュタ方面に歩いて戻る事にしたのだった。
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