第31話 生産
風邪のような症状が出たら要注意です。
念の為、男性二人も口を縛って舌を噛まないようにしてください。
それと湯を沸かす量を倍に。
女性の方は、その時には手足を寝床に縛り付けた方が良いかもしれない。
もしかすると女性の方は、その時点で内臓がもたないかもしれないので、それなりの覚悟をしておいてください。
医師の話に侍女は、何でこんな酷い事ができるんでしょうねと言って泣き出してしまった。
アリーナも泣きたくなったが、ベアトリスたちが堪えているのにここで自分が泣くわけにはいかないと必死に堪えた。
夕方になり、妻が帰って来ていない事に気付いたヴァーレンダー公は、執事の一人を宿泊所に様子を見に向かわせた。
アリーナは執事に、自分は暫くここに泊まりますと告げた。
少なくともドラガンとザレシエの状態が落ち着くまでは、ここを離れるわけにいかない。
これが今のわたくしの使命なのだからと。
ただ、侍女には一度帰るように命じた。
侍女も自分も残ると言ったのだが、アリーナは、自分の代わりに夫に報告をして欲しいとお願いした。
長期戦になるかもしれないので侍女だけでも疲労を溜め込まないでいて欲しいと言うと侍女も納得してくれた。
侍女は帰って皆にそう伝えますと言って宿泊所を後にした。
侍女から報告を受けたヴァーレンダー公は、あまりの酷い状態に驚いた。
わずか小一時間吸い続けただけでそれなのか。
半日吸い続けたらそんな事になるのか。
では他の娘たちは一体どうなってしまうのか?
ヴァーレンダー公はすぐに主治医を呼びつけた。
一体彼らが使っていた麻薬は何なのかと尋ねた。
突然そんな事を聞かれてもわかるはずもなく、主治医は時間をもらい、憲兵隊詰所に行って話を聞いてきますと行って総督府を出た。
憲兵隊詰所に行き詳細を聞こうとしたところ、一人の医師が主治医の姿を見て良いところにと言って近寄ってきた。
少し知見をお聞かせいただきたい、そう言って主治医を実験室のような部屋に連れて行った。
これが現場で見つかった香で、逮捕者を尋問して聞き取った原材料がこちらと言って報告書を手渡された。
何かわかる事は無いだろうか。
そう言われ主治医は渡された報告書を読んでいく。
供述は複数人からのもので、所々内容は違っている。
聞いた話、全てがそういう前提の内容であった。
主原料は、蜂蜜、竜の性器、竜の砂肝。
これについては全て共通している。
他に数点書かれているが、それは供述者によって違っている。
確かに竜の性器や砂肝に強力媚薬効果があるというのは聞いた事がある。
砂肝は
一方の性器に関しては、摂取すると胆力が沸き性欲が長持ちすると言われている。
これらは彼らにもすぐに何かはわかっているであろう。
ただ、この二つがそんな強い依存性を持つ麻薬になりうるなどとは、ついぞ聞いた事が無い。
であれば、問題はもう一つの蜂蜜だろう。
だが、蜂蜜などどの家庭にも溢れているし、そんなものを焚いたところで中毒を起こしたなどという話は聞いた事が無い。
もしそれで中毒になるなら、どの家庭の女性も中毒になっているはずである。
料理屋など重度の麻薬中毒患者だらけだろう。
主治医は現場で見つかった黄色い固形の香を手に取った。
煙を吸い込むと危険と言われ、そのまま匂いを嗅いでみる。
事前に少し聞いていた通り、バナナのような甘い匂いがする。
確かに蜂蜜のような酸味のある匂いもする。
その奥の方にどこか青臭い匂いと生臭い匂いが混ざる。
もう一度報告書を見て、主治医は一点だけだが疑問を覚えた。
この青臭い匂いは何なのだろう?
ヴォルゼル憲兵総監にその事を話すと、ならば供述者を問い詰めてみようという事になった。
だが誰もその事を供述しなかった。
言えないのではなく知らない。
そういう感じだったらしい。
そこでヴォルゼルは、竜産協会の幹部の一人を直接尋問する事にした。
「こんな事をしてただで済むと思うなよ!」
そう言って幹部は憲兵隊員を恫喝していた。
するとその報告を聞いたヴォルゼルは尋問室に入っていき、幹部に聞こえるように隊員に命じた。
「あらゆる拷問を許可する。言ってしまった方がマシ、そう思えるくらいの苦痛を与えよ。被害者たちは、この世の地獄を味わったのだ。この者にもその一端を見せてさしあげろ」
ヴォルゼルが退出し、一時間も経たずに隊員が報告をしてきた。
その内容は、その部屋にいた者全てを驚かせるものだった。
巣に蜂蜜をつくるのは、基本的には蜜蜂だけである。
だがその中には花の蜜や花粉以外の物を集める種類がいる。
その一つに、ある種の果実を傷つけその樹脂を採取する蜜蜂がいる。
蜜蜂も針を持っていて人を襲う。
通常の蜜蜂であれば刺されても腫れる程度で、そこまで人体に影響は無い。
そもそも蜜蜂の針の毒は極めて薄いのだ。
だが、刺されると幻覚を起こすと言われている蜜蜂がいる。
その蜜蜂が集めるもの、それはケシという植物の花が落ちた後にできる果実の樹液である。
この白い樹液は、昔から傷口に触れると幻覚作用を起こすと言い伝えられている。
その為、麻薬として広く知られている。
だが、大量摂取しなければそこまで強い効果は得られないし、強い禁断症状はあるものの、そこまでではない。
大陸の北西にある竜産協会が管理する竜の一大生産地ランチョ村。
このランチョ村とは別に、ベスメルチャ連峰を挟んでちょうど反対側の大陸の南東にもう一つ生産地がある。
王都アバンハードとルガフシーナ地区の間に広大な平原、そこにもう一つの拠点はある。
村の名はホドヴァティ村。
竜の餌の生産と、竜用の薬品の元となる生薬の栽培、飛竜の生産育成をしている。
現在、ここの一角に巨大なケシ畑があるという。
表向きは竜の鎮痛剤や食欲不振の為の薬の栽培。
だが裏では、そのケシの実から蜜蜂に樹液を集めさせている。
ケシの樹液は蜂の体内で濃縮され成分が凝縮される。
その結果、通常の何十倍、何百倍という効果のある麻薬が製造できる。
報告を聞いたヴォルゼルは、すぐに憲兵隊員を集め麻薬の拡散状況を調べさせた。
主治医も総督府に急ぎ、ヴァーレンダー公にこの事を報告したのだった。
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