第24話 捜査

 ここまでの話になるとさすがに報告が必要。

そう家宰ロヴィーは感じたらしい。

ヴァーレンダー公へ報告を行う為、一旦宿泊所の対策本部を離れた。


 冒険者は総督府を挟んで反対側にある憲兵隊の詰所に連行され、徹底的に尋問が行われる事となった。


 ドラガンたちも、自分たちも捜査をしたいとクレピーに申し出た。

だがクレピーは許可しなかった。

次は捜索中にベアトリスさんかレシアさんが同じ目に遭うだけ。

そうドラガンたちを説得した。


 確かにクレピーの言う事も納得がいく。

だが、ただ座して待っているだけというのはどうにも落ち着かないものがある。


 ベアトリスとレシアは、二人で体を寄せ合って恐怖に震えている。

そんな二人にアルディノは温かい飲み物を差し出し、大丈夫だと落ち着かせている。




 外はすっかり陽が落ち漆黒の世界になっている。

人々の活動があり明かりは灯されているものの、一本路地に入れば闇夜である事を思い出させる。


 未だロヴィーは総督府から戻らないが、ペティアの状況は捜査を行っている執事たちから続々と寄せられている。

それを対策本部の憲兵隊の隊長が逐一報告を受け紙に記載している。


 どうやらペティアは、朝、宿泊所を出ると昼前まで競竜場付近で絵を描いていたらしい。

競竜は競竜場内で行われるのが普通なのだが、アルシュタの競竜は海竜によるもので競竜場の外からも覗き見る事ができる。

どうやらそんな場所でペティアは絵を描いていたらしい。


 競竜場はアルシュタの街の北東の外れにある。

ロハティン同様、管理はアルシュタ総督が行っているが運営は竜産協会が行っている。


 アルシュタ総督はロハティン総督と異なり、代々、竜産協会と折り合いが悪い。

以前は事務所も総督府の隣にあったのだが、今は競竜場の西に引っ越している。

元々その場所は憲兵隊の詰所があった場所で、憲兵隊と事務所の場所を交換した格好なのだそうだ。


 ただ街の外れにあるという立地条件から競竜場の周辺は憲兵隊の目が届きにくく、かなり治安が悪い。

表向きには華やかな競竜場への街道沿いという事で、人通りも多く一見すると治安が悪いようには見えない。

その為ペティアも安心しきってしまったのだろう。


 昼過ぎには、もうペティアの姿は確認できていないらしい。

つまりそのあたりの時間、白昼堂々とペティアは誘拐されたという事になる。


 憲兵隊は執事たちが捜査を開始してから呼び出され、少し遅れて調査を開始している。

さすが憲兵隊はプロ集団であり無駄が少ない。

ロヴィーが恫喝によってペティアが『闇市場』へ売られたという情報を得たそのすぐ後に同じ情報の報告を受けている。


 二通りのルートから同じ情報を受けたという事は極めて信頼性が高い情報と判断できる。

そう考えた憲兵隊の隊長は捜査中の憲兵隊員を引き抜き『闇市場』を調査させた。


 ところが、その調査を行ったグループが消息を絶ったのだった。

憲兵隊の隊長としては非常に判断に迷う状況だった。

ここで全隊員を『闇市場』の調査に向けてしまって、果たして本当に良いものなのかどうか。


 この時点で既に陽が落ちてから三時間以上が経過している。

街はもはや酒場くらいしか火が灯っておらず、街全体がゆっくりと活動を休止しようとしている。

こうなってくると判断の遅れは被害者の安全に関わってきかねない。


 一緒に報告を聞いていたザレシエは憲兵隊の隊長に、消息を絶ったグループの消息を全隊員で調べましょうと進言した。

ただし相手は極めて獰猛だから十分身の安全をはかるようにと。

報告に戻った隊員から順に消息を絶ったグループの捜索に切り替えて行った。



 そこにやっとロヴィーが対策本部に戻って来た。

これまでの報告を受けたロヴィーは、今度は憲兵総監に会って来ると言って出かけていった。



 消息を絶ったグループを捜索していた憲兵隊員から最初の一報がもたらされた。

路地を一本入った亜人を相手にする酒場の一つから、彼らが聞き込みに来たという証言が得られたらしい。

その証言によると、闇市場の場所はアルシュタでもかなり大きい有名な酒場の地下であるという。


 すると次の情報が入って来た。

その憲兵隊員の情報も同じく酒場からのもので、同様に彼らが聞き込みに来たという証言が得られたらしい。

その情報によると闇市場の場所は漁港近くの倉庫であるという。


 さらに別の情報が入った。

これまた酒場の情報で、闇市場の場所は万事屋の近くの魔物解体屋の地下であるという。


 さらに別の情報が入った。

その情報は三件目と同じ漁港近くの倉庫というものだった。



 二つ同じ情報が入ったという事は漁港近くの倉庫が極めて怪しいと思うと、憲兵隊の隊長はザレシエに言った。

ザレシエは、どうにも何かが引っかかると感じたらしい。

アルシュタの地図に情報のあった場所をチェックしてもらった。


 かなり大きい有名な酒場、これは街の東西の路地の西側にある。

漁港近くの倉庫、これは街の西側の北の海岸沿いになる。

万事屋の近くの魔物解体屋、これは街の東西の路地の西側の南の外れにある。

情報のあった場所全てが街の西側に集中している。


 もしかして意図的に闇市場の偽情報を流されているのではないだろうか。

だとすれば本当の場所は街の東側……


 それを聞いたドラガンは憲兵隊の隊長に、競竜場に地下があったりはしないかと尋ねた。

憲兵隊の隊長は腕を組み、そのような話は聞いた事が無いと言った。

憲兵隊が聞いた事が無い。

つまり、まだ見つかっていないという事なのでは無いだろうか?


 そう言い合っていると憲兵隊の隊員が戻って来て、漁港近くの倉庫で消息を絶ったグループの物と思われる剣が見つかったと言って持ってきた。


 やはり漁港近くの倉庫が怪しいのではないか、そう憲兵隊の隊長は言った。

だがザレシエはそれは囮罠だと主張。

ペティアのいる場所から目を反らせるための罠で、競竜場、もしくは竜産協会の事務所に地下があり、そこに囚われていると思われる。


 憲兵隊の隊長は、素人考えだとザレシエに言った。

既に証拠品が出てきているのだから、漁港近くの倉庫と考えるのが極めて自然である。

だがドラガンもザレシエの考えに賛同だった。

両者の意見は真っ向から対立する事になった。


 そこに、ロヴィーが憲兵総監のヴォルゼルを連れて対策本部に戻って来た。

ロヴィーとヴォルゼルは椅子に腰かけると両者の話をじっくり聞いた。

ヴォルゼルは、すくっと椅子から立ち上がると、新規の隊員を全て競竜場と竜産協会の事務室の捜査に向けろと副官に命じた。

がっかりする隊長に、漁港近くの倉庫にも何かあるはずだから、これまで捜査していた隊員はそちらに全て集中させろと命じた。


「連絡は逐次! 歯向かう者には容赦は要らん! これは総督閣下からの命である!」

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