第21話 晩餐会
到着してから荒天が三日続いた。
到着して二日目、やっとエルフ二人の体調が戻った。
クレピーがそれを家宰ロヴィーに報告した事で、その日の夜は晩餐会が予定される事になった。
日中は雨天で外にも出れず、皆極めて暇だった。
最初、食堂でザレシエとドラガンが紅茶を飲みながら話をしていた。
するとその後ろからベアトリスが抱き着いた。
何の話してるのと聞くベアトリスに、ザレシエは、沼の水をどうやって抜こうとしてるのか聞いていたと答えた。
ベアトリスは興味津々に、私も聞きたいと言ってドラガンとザレシエの間に席を割り込ませて座った。
沼の水を抜く話を再度最初から説明していると、そこにペティアがやってきた。
何の話と言って、後ろからドラガンの首に抱き着いた。
柔らかな感触が背中に当たり、ドラガンは思わず背筋を伸ばしてしまう。
若干しどろもどろな感じで仕事の話だよと言うドラガンに、ペティアは、私も聞かせてと言ってベアトリスとは反対の椅子に腰かけた。
ベアトリスがドラガンを見ようとすると、どうしてもペティアが目に入る。
気になるのはその立派な胸部である。
ベアトリスは顔は美形なのだが、エルフにしてもかなり肉付きが悪く、ひょろひょろといっても良い。
残念ながら胸部もペラペラである。
サファグンは人間よりは総じて細身だが、それなりに肉付きはある。
ペティアは中でも胸部の肉付きが良い方だろう。
おまけにサファグンはエルフとは違う類いの美形が多い。
ベアトリスは自分の胸部を見てからペティアの胸部を見て悔しがった。
そんな三人の様子を部屋の入口付近でレシアが恨めしそうに見ていた。
するとそこにアルディノが入って来て、レシアに、お前さんもあそこに混ざって来いと言って背を押した。
ところがレシアは足がもつれてしまい、床にびたんとうつ伏せに転んでしまった。
びっくりしたドラガンは、すぐにレシアに駆け寄り、どうしたのと声をかけた。
まるで幼児に対するような反応である。
レシアはドラガンに手を引かれ立ち上がると、泣き出しそうになった。
どこか自分が惨めに感じてしまったのだろう。
ドラガンがどこか痛いのと聞くのだが、レシアは首を左右に振ってうなだれた。
ペティアとベアトリスも寄って来て大丈夫だったとレシアを心配した。
そこから六人で卓を囲み、ドラガンのやっている沼の水抜きの話を聞いたのだった。
夕方、大雨の中一台の竜車がやってきた。
宿泊所と総督府は目と鼻の先であるが、少しでも濡れないようにという配慮であろう。
ドラガンたち六人とクレピーを乗せ、竜車は総督府へと向かった。
晩餐会の参加者はアルシュタの政と軍の重鎮とヴァーレンダー公の身内。
天気の悪い中、皆正装して歓談している。
女性三人は総督府に到着すると、すぐに別室に連れていかれた。
レシアが不安そうな顔でドラガンを見ていたが、ドラガンは小さく頷いて微笑んだ。
男性三人は別の部屋に行き、正装に見えるように上着を借りると、それを羽織って晩餐会場へと向かった。
晩餐会場はいつもの豪華な応接室ではなく多目的広間のような場所であった。
ヴァーレンダー公の姿は見えず、参加者の顔も多くは見た事の無い顔だった。
ただ中には何人か見た事のある顔もある。
そんな一人、艦隊のラズルネ司令長官がドラガンの姿を見て近寄って来た。
ラズルネはドラガンの前に来て小さく敬礼をした。
ドラガンはどう返して良いかわからず、とりあえず仕草を真似てみる。
何か違う、ラズルネはそう感じたらしい。
がははと笑い出し、もう少し脇を締めろと言って矯正した。
少しだけ遠巻きに見て満足したのだろう。
数回頷くと、またお会いできて光栄だと言って今度は握手を求めた。
ラズルネの後は、ユリヴという水抜き工事の責任者が近寄って来た。
最初ドラガンは、それが誰だかイマイチわからなかった。
ユリヴは首を傾げ、お久しぶりです、カーリクさんが戻られるのをずっと待ってましたよと声をかけた。
その声でやっとそれがユリヴだとわかったらしい。
「誰かと思いましたよ。そんな綺麗な恰好してるから」
「それは、あんまりですよ。俺だってこういう場ではちゃんとこういう恰好もできるんです」
そう言うとドラガンとユリヴは肩を叩き合って笑った。
ユリヴはドラガンの背に手をまわすと小声で、中々の成果ですよと囁いた。
雨が上がったら早急に沼にお越しください。
そう言ってニコリと微笑んで仲間のところへ帰っていった。
ユリヴの後はクレピーが来て、アテニツァを呼び漁業の責任者のところへ連れて行った。
アテニツァは関係者に何度も頭を下げていて、関係者もアテニツァの背を叩いて笑っていた。
すると入口のドアが開き、ベアトリスが着飾った格好で入出してきた。
さすがエルフ。
正装すると普段とは見違える気品がある。
次にペティアが入室してきた。
なかなかのプロポーションに会場の男性たちからちょっとした歓声がおきた。
最後に恥ずかしそうにレシアが入室した。
あら可愛らしい、そんな声がどこかから聞こえてきた。
レシアは恥ずかしがって中々会場に入れず、入口でもじもじしている。
するとレシアの後ろに一人の男性が立ち、レシアの肩に手を置き入室を促した。
その男性はレシアの肩に手を置いたまま、ドラガンの下にやって来た。
「食事の方はどうかな? 楽しんでもらえているかな?」
「お招きに預かり光栄です」
ザレシエも同様に一礼すると、我々までお招きいただきましてありがとうございましたと述べた。
ヴァーレンダー公は、うむと小さく答えると、おかげで晩餐会に花が咲いたと、レシアを見て笑い出した。
レシアは自分の肩に手を置いたままの男性が公爵様だと知り思わず震えた。
「ん、どうされた? ああ、そうか。そのような恰好で体が冷えてしまったのかな。えっと侍女は……」
ヴァーレンダー公はきょろきょろと参加者を見渡し、妻の侍女の姿を探した。
「い、い、いえ。そ、そ、その。公爵様なんて、そ、その……」
レシアは何かに恐怖するように、上手く声が出ないでいる。
そんな緊張が極限に達しているレシアを、ヴァーレンダー公は優しい目で見つめる。
「ああ。何、公爵といったって別に怪物でも何でもない。そんなに恐れる必要は無いよ」
「あ、あり、ありがとうございます」
ヴァーレンダー公は、ドラガンの顔を見て豪快に笑い出した。
だが、それでもレシアは緊張で震えが止まらなかった。
するとそこに公爵妃のアリーナがやってきた。
ヴァーレンダー公もそれなりに若いのだが、アリーナはそれに輪をかけて若い。
豪奢な金髪を頭上で束ね、少しあどけなさの残る顔は屈託のない笑みを湛えている。
アリーナは話を聞くと、可愛いと言ってレシアをぎゅっと抱き寄せた。
さらにヴァーレンダー公に、この娘のお話が聞きたいとせがんだ。
ヴァーレンダー公は少し顔を引きつらせ、お手柔らかになと許可した。
「あの、私、その……」
レシアはアリーナに抱きしめられ、顔を真っ赤にして手をもじもじさせている。
「どうしたの? 困りごとがあるなら遠慮なく言ってみて」
アリーナはそんなレシアに屈託のない笑顔を向けた。
どうやらレシアはアリーナに抱きしめられた事で多少緊張が和らいだらしい。
先ほどまでのような極度の緊張というような状況では無くなったように見受けられる。
「その、お手洗いに……」
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