第25話 一難去りまた一難

 妻が仕事を休んで半年が過ぎようとしていた。徐々に生活にも慣れわたしが感じるストレスも少しづつではあるが軽減して来た。そこにとある「厄災」がやってきた。義母だ。

 ある日の夜九時を少し回った時間。妻が夜眠りにくいとの事で夜に散歩をする事が日課となっていた。当時歩く事で物語が進むスマホゲームを二人で始めており、ただ歩くだけでなく何か理由があると歩くのも苦ではなかった。その日も同じように用意をしているとインターホンが鳴る。覗き穴から見ると義母が両手に荷物を下げ立っている。嫌な気はしたが開かない訳にもいかない為鍵を開ける。開けると同時に家は飛び込んでくる。「二、三日泊めてくれない」との事だった。


 妻の母は現在一人暮らしで隣の県に住んでいる。車で一時間程度の距離である為たまに夕食などご馳走になる事もあった。しかし普段は何かしら連絡が入り予定を合わせる、今日はいきなり来てこの言いようだ。妻に聞くが妻も知らないようだった。

 話を聞くとわたしの住んでいる市内で短期のアルバイトをするらしく家から通勤している体でわたしの家から通うとの事だった。義母は通勤費用が浮くからね、と笑っていたがわたしは笑えなかった。実は妻の入院した本当の原因を義母は知らず、わたしが隠していると思い込んでいたからだ。

 案の定夫婦生活も上向きになりかけた所に異物が混入すると良い方向には向かない。家具の配置や物の収納、更には寝室にまで勝手に入り色々御託を並べ始めた。あまりの図々しさに怒りを通り越して呆れてしまった。すると妻が義母に「もう良い加減にして、帰ってよ、貴方の家ではないでしょ。アルバイトだって、交通費を得したいが為に泊まる前提で私たちの住んでいる地域で探したんでしょ、」とわたしが言えなかった事を代弁してくれた。まぁそこで引き下がる義母ではなくなんだかんだ言い訳を述べ結果泊まる事になった。


 その翌日からわたしは夜勤であった為一日家を空けた。案の定親子で揉めたようでわたしが家へ帰ると玄関に切り刻まれた新聞紙が散乱しリビングへ行くとわたしの仕事の専門誌にナイフが突き刺さっていた。勘弁してくれと思う気持ちを抑え妻の様子を伺う。ベッドで横になっており手などを確認したが傷つけている様子はなかった。ひとまず安心し、眠さを堪えながら後片付けをする。新聞紙を燃えるゴミの袋にまとめ、掃除機をかける。専門誌は使う事もありナイフを抜き表紙にマスキングテープで外見を分からないようにする。こんなもの職場へ持ち込んだらドン引きされるに違いない、ため息しか出なかった。義母さえ来なければ、そんな事を考えながら片付けをしていると音に気づいた妻が起きてくる。手伝ってくれるのかと思ったら近くにかけてあるカレンダーをビリビリに破り出す。「普段掃除なんてしないのに当てつけのような事しないで」と言い寝室のドアを思い切りバタンと締める。

 

 実家の母に電話をする。勿論聞かれないようにベランダに出てだ。「母さん、俺無理かもしれん。こげなこと耐えれんよ」と弱音を吐く。

母は、「辛かったらいつでも戻っておいで。頑張れとか、別れたらとかはわたしからは言えないけどあんたは大事な息子だから。たまには帰って来てもよかよ」と優しくわたしに話す。思わず泣いてしまった。母は不治の病に侵されながら気丈に振る舞っている。今も体は辛いはず。

「元気出たよ、ありがとう」と言い電話を切る。片付けを再開すると冷静になった妻が謝ってくる。キレ散らかしたい所であったが、母と話した事で冷静になれたわたしは、いいんだよ、と妻に話し片付けをし仮眠を取る。「夜ご飯はカレーにするね!」と笑顔で話す妻。カレーはわたしの大好物だ。寝る前に母に感謝のメールを送る。

 後日母が急変したとの情報が入る。

 次回はその事について記そうと思う。

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