第23話 嘘、嘘、嘘、

 妻がわたしを心配し公園まで迎えに来てくれた。そこまで全話で記載した。勘の良い方ならピンと来たかもしれないが、妻はわたしが「浮気相手」と会うことを知っていた。というのが事実となる。


 わたしは元々臆病な性格で高圧的な態度を取ってくる相手が苦手であった。まして弁護士は難しい言葉を並べ、喋りが仕事でもある。その人と話すこと自体ストレスであったが、浮気相手が謝罪の前に弁護士を立てた事に意味がわからず混乱していた。それらを危惧した妻が心配して探しに来てくれたとの事だった。


 家に帰り冷静になり、何故今日浮気相手と会うことや弁護士がいる事を知っているのか聞くとあっけらかんとした顔で浮気相手と連絡をとっていたことをわたしに話した。手が出そうになるのを抑え、今更何を連絡する事があるのか聞くと、妻は妻で浮気相手に対しこんな事に巻き込んでしまって申し訳ない事を話していたと説明するが、嘘をついていることは分かっていた。わざわざ言及するまでもない。浮気相手と話していた時にわたしの妻から何度か連絡が来ていた事も聞いていた。内容は、よりを戻したいなどといった事ではなかったが、昔のように友達としてやり直したいなどと話しているようだった。


 人間は嘘をつくためには更にその倍の嘘を付かないといけないと言われるがまさにその通りだった。わたしには妻が何を言っても嘘にしか聞こえず、何ヶ所か事実を捏造している事も知っていた。しかし言わなかった。いや、言えなかったというのが真実だろうか。わたしが問い詰めていくとどんどん妻を陥れていくような気がしてならなかった。離婚の文字も脳裏に浮かんだ。


 結果妻は職場を退職する事になった。幸いにも病気という事もあり傷病手当金が支給される事になった。普段のお給料より低いが貰えるだけわたしとしてはありがたい。生活費の足しに出来ればと考えていた。


 妻が悪いことばかり書いてしまったが、わたしも妻に嘘をついていた。お金の事は心配させないようにしていたが、ローンや急な出費、新婚旅行も予定していた為業者にお金も支払っている。泣く泣く父にお金を借りていた。その事はたまに黙っていた為わたしも妻の嘘にあまり強く言えなかった。


 積み木を組み立てるのはとても難しいが壊すのは一瞬。それは人間関係も夫婦関係も同じ。当時のわたしは、また一から組み立てていけば良いと考えていた。それがどれだけ過酷のものになるのかは分かっていなかった。

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