第12話 暖かい日々
彼女も目標が決まったのか仕事を再開した。休む事はあったが以前のように無断欠勤などでなくきちんと前もって連絡をしたり前日から熱があると翌日病院へ行って検査を受けてから連絡を入れるなど行っていた。当たり前の事のように思えるが当たり前に行えるのは精神面が安定しているからこそ。わたしもとても嬉しく思いお互い仕事に家庭に順調であった。
それから数ヶ月が経過し、年末年始、わたしは久しぶりに地元へ帰省することにした。学生時代は長期休暇などあった為たまに帰省していたが社会人ともなるとそうもいかない。まして新人でもあり有休もない事から連絡もあまり取っていなかった。
少し余談になるがわたしの母は病を抱えている。悪性腫瘍である。転移を繰り返したがその度に手術や放射線治療を受け奇跡的な復活を繰り返していた。元々気丈で弱音など一度も吐いたことを見た事のない母だが、初めて病気になった時に「まさか自分がこんな病気になるとはね、今だけは昔みたいに強くいれないね」と涙を堪えながら話していたのを今でも思い出す。幸いにも毎回治療は成功している為余命宣告は受けていないが長くは生きられない事は家族がわかっていた。
久しぶりの帰省にわたしは初めて彼女を連れて行くことにした。両親は快く承諾してくれて新幹線でかなりの時間が掛かりヘトヘトで帰省すると大量のご馳走を用意して歓迎してくれた。
特に母と彼女が意気投合しワインを飲みながら楽しそうに話していた。彼女は何度も気を遣って手伝おうとするが母が「こんな息子にこんな出来た彼女が居てくれるだけで私は嬉しいんだよ、だから遠慮しなくていいの!」とガハハと豪快に笑って見せていた。
わたしは両親に彼女と結婚を前提にお付き合いをしていることを伝えた。まだ二十代で社会人一年目。早いかなと不安視したが母が彼女に「こんなのでいいなら喜んで!ならわたしのこと今度からお母さんって呼んでねー!」と笑って承諾し横を見ると父はお酒を飲みながら涙を流して喜んでくれていた。それを見てわたしも泣いてしまい彼女、いや「未来の妻」も泣き出し大人四人で泣き笑いしながら時間を終えた。滞在日数は仕事の都合もあり二日と短かったが元気な母が見れた喜びと結婚を素直に喜んでくれた事で胸がいっぱいになり仕事へと戻る。
お正月を地元で過ごし、とても充実した帰省になった。目標の半年までもう少し。わたしは彼女に内緒で婚約指輪の用意をしながら仕事をこなして行く。
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