第11話 彼女の本音

結局彼女は数ヶ月職場復帰をしたがうまくついていかず仕事を休むことになった。仕方ないと言えばそこまでかもしれないが無理して続けるより一旦休む事が彼女にとってもいいかもしれないとわたしも判断した。

その後は調子良く過ごせているようだった。精神からからうつ病の診断を受け傷病手当金を受ける事ができた。収入はかなり減るが元々わたしの給料で家賃や食費などを賄っており彼女のお給料はそのまま貯金していたからだ。今後結婚なども見越して。


今まで塞ぎ込む事が多かった彼女は家事を精力的に行ってくれた。朝は薬の影響で起きれない事も多かったが掃除や洗濯、お弁当やその他の食事も用意してくれていた。PMSの為生理前後は動けない事があったがそれ以外は何もわたしが言う事は無いほど完璧にこなしてくれていた。家の事は任せてわたしは仕事に集中すればいい。その時はそう思っていた。



ある日仕事から帰ると彼女が真剣な顔で机に座っていた。「少し話しがある」とわたしに言うと向かいの席に座るように促した。胸がザワザワし心臓の鼓動音が伝わってくるのがわかった。「私、転職しようと思う。今のところを続けるよりいったん環境を変えようと思う。」

突然の報告に驚いたと同時に胸をホッと撫で下ろす。常に最悪の事態を想定してしまっていた。わたしは「そうだね、君がそう思うならそうしていいと思うよ。でも急がなくてもいいからね、無理はしないで」と彼女に告げる。彼女も「ありがとう。いつも一人で働いてくれてありがとう。」とお礼を述べ、一枚の紙をわたしの前に出す。「婚姻届」

「お金が沢山あるわけでもないし、私も普通の女の子みたいに元気じゃないし上手く働ける人でもない。でもそんな私を見捨てずに一緒に居てくれる人と結婚したい。でもそれは今じゃない。半年わたしが仕事続ける事ができたらこの用紙を出したいと思う。だからお守りにしたいから署名だけしてほしい」と照れながら話す。正直私自身も結婚は何度か考えた事もあったが現実的ではないし、今のまま結婚しても上手く行くとは考えにくいと結婚に関しては直視をしなかった。彼女にここまで言わせてNOとは言えない。「わかったよ、僕も同じ気持ちだよ」と婚姻届にサインをする。この日だけは軽く二人でお祝いをした。慣れないイタリアンのお店に行きマナーもよく分からないがとにかく楽しい一日だった。この日が運命を決める一日になる事を当時の二人は知らず、明るい将来を思い浮かべ眠りにつく。

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