第9話 嘘

仕事が始まり三ヶ月が過ぎようとしていた。お互い働きながらの生活にも慣れ、休みを合わせて外出なども行っていた。学生の頃のように土日は固定で休みではなかったが平日に出かける事が多くなった。平日の市内は仕事中のサラリーマン、休憩中の清掃員、ガラガラのカフェ、今まで見えなかった世界が見えてるようで何故か新鮮な気持ちになった。新入社員の為お給料も多いとは言えず、わたしも実家に病気の母がいる為できる限りの事を行っていた。裕福ではなかったが二人で何気なく過ごす毎日がとても貴重な時間であった。


しかし良い事があると悪い事もある。むしろ悪いことの方が多い。だから尚更良いことがあると一段と喜びは増すものである。

世間は夏休み。以前なら友人と遊びに出掛けていたが社会人となるとそうもいかない。夏休みだろうがお盆だろうが患者さんは待ってはくれない。わたしも仕事に慣れてはきたが疲れは徐々に蓄積していた。それは彼女も同様であった。

ある日、彼女の様子が明らか変であった。変と表現するのが正しいか分からないがいつもと違う事はすぐに理解できた。「最近元気ないように見えるけど、どうかした?疲れてる?眠れてない?」わたしは思いつく限り言葉を振り絞った。勿論彼女の「爆弾」に触れないように言葉には特に注意していた。その時は「なんでもないよ、ただ疲れてるだけ」。明らか嘘をついているのは明白であった。私自身嘘をつくのが下手な反面見破るのも得意であった。しかしそこで追求することが得策でないと判断した為その場は波風立てず過ごすことにした。


とある日彼女がスマホを置いたまま出勤していた。わたしは休みであった為届けに行くか、置いておくか迷っていた。因みにパスコードは教えてもらっていない為中身は確認できなかったがいわゆるLINEや通話の履歴などはスマホの画面に表示されており、何気なく目をやると不在通知が数十件、未読のメッセージも数十件きていた、驚いていると着信が鳴る、表示先は彼女の働いている病院からだ。迷ったが彼女が電話をかけてきてるのかもしれないと思い電話に出た。「◯◯さん?今どこに居るんですか?ここ一週間休んでいるから心配してるんですよ、」

絶句するとはまさにこの瞬間の事を指す。私は開いた方が収まらず電話相手が彼女の交際相手である事をどうやって説明したのかすら記憶にない。ぼんやりと理解できた事は彼女がここ一週間仕事に来ていない事実だ。どうやら職場に無断で休んでいたようで何度も連絡したがでないと為今日家に行くところであったと所属長さんは言われていた。


普段のように夕方過ぎに彼女が「どこから」か帰ってくる。顔は青ざめておりまるで死人のような目をしていた。

わたしは一つの選択を迫られる事になった。

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