第15話:目指せ味の素マスター

 近年では「味の素」、つまり精製されたグルタミン酸ナトリウムを主原料とするうま味調味料の立場もずいぶん良くなった。私が敬愛するリュウジ兄貴をはじめ、レシピに堂々と味の素を使う専門家も増えてきた。健康への害悪という、とっくに否定された風評を主張するのも一部の狂信者ばかりである。


 ただし、現在の日本における食環境で、積極的に食品や料理に関する知識を吸収せずに育った人にとっては、味の素というのは使いにくい調味料ではあると思う。理由として、今は調味料が非常に多く、それらのうちのほとんどには既に「調味料(アミノ酸等)」として味の素(あるいはそれに近いもの)が含まれているからである。


 具体的には、大抵の「ソース」「たれ」「○○の素」類には入っていると思ってよい。例えば冷蔵庫の中にあるものとしては、マヨネーズやドレッシング、めんつゆ、焼肉のタレあたりには、メーカーが何らかの縛りプレイをしているのでも無い限りほぼ確実に「調味料(アミノ酸等)」が入っている。カレールーや中華料理の素、パスタソースなども同様である。


 逆に、意外なところではケチャップには含まれていない(少なくとも使用されている例を私は見たことがない)。ウスターソース類にも入っていないものが多い(お好み焼きソース等、用途を指定したものには入っていることも)。理由としては、これらの主成分であるトマトはグルタミン酸が豊富なので、わざわざ余計なコストをかけて添加するまでもないのだろう。


 一方で日本におけるグルタミン酸を含む食品の代表選手は昆布だが、酢昆布や塩昆布などの味付け加工品にはアミノ酸を添加している例がほとんどだ。おそらく、これらの昆布が出汁ガラ(工業製品としての昆布だしの副産物)の再利用品であることが理由ではないかと考えられる。


 このように、食品加工現場における「味の素」の役割を知っていると、どのように使えばいいかの道が見えてくる。味の素は何にでも振りかけるものではなく、あくまでも欠けた味を補うために使うものである。すでに「味の素」入りの食品に囲まれていると、その恩恵を実感しにくいというのは確かだ。


 「加工食品に味の素が含まれているなら、わざわざ消費者が味の素を使う必要はない」と主張する人もいるが、それを言うなら塩や砂糖でも同じことである。「食品や調味料にすでに含まれているから塩や砂糖を使う必要はない」と言うのは暴論であろう(たしかリュウジ兄貴もそう言って論破してたはず)。基本的な調味料を揃えることで、より自分好みの味を細かく追求できるようになるのだ。


 例えば日本における基礎調味料である味噌や醤油。敢えて「だし入り」などと書かれていなければ味の素は入っていない。エンドユーザー自らの手で味の素と組み合わせて「いい塩梅」を見つけるには絶好の相手だ。味の素ビギナーは、まずご飯(+生卵)や豆腐に、味噌や醤油といっしょに味の素を少しずつかけてみることから始めてみてはいかがだろうか。


 味の素とは何であるのかを理解すれば、そのうち既成品より美味い(少なくとも自分好みの)料理を作れるようになるだろう。様々な食があふれている時代だからこそ、自らの手で味を作る楽しさを体験してみるのも悪くないのではなかろうか。

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