第12話:素晴らしきタイカレー
タイ料理というものにいつ出会ったのか、どうも記憶が曖昧である。少なくとも家庭では全く食べなかったので、大学に出て東京で外食をするようになってからだとは思うのだが、具体的にどの店が初めてだったか思い出せないのである。あるいは居酒屋の一品メニューだったかも知れない。
少年時代である90年代にはうっすらとエスニックブーム的なものがあり、家族でインド料理店にカレーを食べに行ったりしたことは覚えているが、タイ料理というのはほぼノータッチだった。もしかしたらファミレスの限定メニューでタイカレーなどを食べたかも知れないが記憶に残っていない。
また米不足も経験しており、タイ米をはじめとする外米が国産米の代用として出回った時代も知っている。しかし我が家は毎年ごとに親戚の農家から直接米を買い付けていたので、この時期に外米を食べた覚えはない(例によって外食では出たかも知れないが)。
なお、タイ料理に欠かせないパクチー(香菜)との出会いは覚えている。刀削麺の専門店だ。独特の匂いがどこから出ているのか最初は気づかなかった。まさか三つ葉みたいな葉っぱから出ていたとは! 好みの分かれる香りとして知られるが、私の場合はすぐに好きになれた。
とまあ、タイ料理との出会いは曖昧なのだが、親しむきっかけになったのは代々木公園で行われていたタイフェスティバル(2010年ごろだったか)である。ここで私は屋台でいくつかのタイ料理を食べ、お土産にタイ米とレトルトカレー(ヤマモリ社)を買ったのだ。この時初めて、タイ米の正式な炊き方(茹でてから湯切りする)も知ったのである。
タイカレーはすっかりお気に入りになったが、なかなか売っていなかったり高価だったりで買う機会があまりなかった。そこで彗星のように現れたのが、いなばのタイカレー缶である。当時はツナがメインの具で、1缶100円くらいで売られていた。これは革命的であった。こんなに安くて手軽にタイカレーが楽しめるなんて! 以前食べた格安のレトルトはシャバシャバで酷いものだったが、缶詰は具がしっかりしてるのが嬉しい。
後に引っ越した先で、タイ出身の方が経営する大衆的なタイ料理屋によく通うようになった。カレーやパッタイなどが500円から楽しめる極めて大衆的な店である(都会のタイ料理店は女性向けのおしゃれスタイルになりがちで苦手だ)。材料も、例えばフクロタケの代わりに(マッシュルームですらなく)シメジを使うなど、地元の安価な食材で工夫する、いかにも家庭料理らしい気取らない雰囲気が好きである。
ここの店主と話をするうちに、自分でもタイ料理を作ってみるようになった。一番簡単なのはタイカレーである。材料を全部一緒に入れて煮込むだけ。タイカレーペースト(業務スーパーで30皿分が300円くらいで買える)とナンプラー、砂糖、ココナッツミルクさえ常備しておけばすぐ作れる(あとレシピには書いていないが、本場っぽくするなら味の素は必須だと思う)。 この中でココナッツミルクだけややハードルが高いのだが、豆乳などで代用しても構わない(牛乳だとややバタ臭くて別物になる気がする、個人的にヨーグルトならありなのだが)。
前回でカレーを1から作る話を書いたが、タイカレーに関してはペーストを使わずにスパイスから組み立てるのは非常に難しい、というかそもそもバイマックルー(コブミカンの葉)とかガランガル(タイ生姜)が手に入らない。新鮮な生スパイスがあってこその料理なので、日本で作る場合はおとなしくペーストに頼るべきである。
というわけで私はタイ料理というものにすぐ適応できたのだが、周囲はそうではないので、個人的にしか楽しめないのがやや淋しいところではある。
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