第9話:白身魚フライに栄冠あれ

 フライ類、ここではカツも含めた「パン粉を付けて揚げたもの」と定義しよう。これらの中で圧倒的な王者はやはりトンカツであろう。肉屋さんでは惣菜のエース、一般的に「トンカツ屋」として看板になりうる、ほぼ唯一のフライである。昔ながらの洋食屋さんでも花形メニューを努めていることが多い。ロースカツとヒレカツの派閥争いは永遠だろうが、まあどちらもトンカツには違いない(私はどちらかといえばヒレカツ派)。


 魚介類部門ではエビフライがトップだろう。特に女性や子供に人気が高い。お子様ランチでは花形であり、エビフライ定食にはときにトンカツを価格で上回ることもある豪華なものもある。さながらフライ界のお姫様といった貫禄である。カキフライも同様の存在感だが、こちらはやや大人向けの印象で、例えるならばフライ界の女王様といったところか。加熱が足りないとお仕置きされるかも知れないので要注意だ。


 エビフライ姫の忠実なる従者はイカフライ。ミックスフライ定食では高確率で脇を固める。肉類のように重くはなく、それでいてエビとは全く異なる食感でアクセントを付けてくれる。そして経営者としてはなんといっても原価が安いのも嬉しい。小さい頃は硬くて苦手でも、大人になると良さがわかってくるものである。


 コロッケやメンチカツも負けてはいない。さながら「商店街のアイドル」である。小中学生が小遣いを握りしめて買い食いするとしたら、最有力候補はこのどちらかだろう。あなたの推しはどちらだろうか。それとも懐具合でころころ変わってしまうだろうか。軽食としても存在感があり、大人になってからも小腹が減ったらコンビニに駆け込んで会いに行く人は少なくないと思われる。


 あるいは、アジフライ。いぶし銀のヒーローといったところだ。きっと着流しが似合う。テーマソングは演歌に違いない。日本全国で穫れる魚なので、漁港周辺ではアジフライが名物の店というのが必ずある。カキと並ぶ鮮度が命の食材であり、これが美味い店は他のメニューも信頼できる。その身にまとうのはウスターソースか醤油か、はたまたタルタルソースか。適応力の高さはフライ軍団の中でも随一である。


 肉類に話を戻すと、チキンカツはオールラウンダーの戦士である。肉のボリューム感がありながらもトンカツほどの重さはない。ボリューム満点の胸肉1枚揚げから、弁当箱の隅をがっちり固めるささみフライまでバリエーションも多彩。バターをその心に宿したウクライナの勇者チキンキエフの名も日本人に広く知られるところとなった。


 さて、そこにきて「白身魚のフライ」である。そもそも白身魚という不確定名のまま売られて食べられてしまうほどに取るに足らない存在なのだろうか。誰かラツマピックの呪文を唱えてくれ(注:『ウィザードリィ』ネタ)。まあ、その時々で一番安いものを使っているのだろう。時にはパンガシウス(ナマズの仲間)などの淡水魚だったりもする。


 白身魚のフライは惣菜として売られるが、飲食店ではあまり見ることがない。「のり弁当」の一部として名前すら言及されないことも珍しくない。そうでなければミックスフライ定食の片隅のモブキャラが関の山である。少なくとも「白身フライ」がピンで主役になっているメニューを、飲食店では見たことがない気がする。


 しかし、私はそんな白身フライが小さい頃から大好きだった。クセのない風味、口の中でほろっと崩れる感覚、魚なのに骨を気にせずに食べられるという安心感。スーパーの惣菜コーナーで買ってもらったり(トンカツよりエビフライより白身フライがいいと言っても理解されづらかった)、マクドナルドではよくフィレオフィッシュを買ってもらっていた(たまにチキンタツタに浮気したけど)。


 そういうわけで、私は白身魚フライについて「もっと評価されるべき」だと思ってやまないのである。

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