第3話:宅配ピザの思い出

 思えば、外食が多い家庭だったと思う。両親が共働きの上に祖父母も自営業だったので、外で食べに行ったり店屋物を取る頻度は、世間一般より多かったのではなかろうか。


 店屋物といえば大抵はそば屋、たまにトンカツ屋(コロッケやエビフライ等もあり)だった。よく「そば屋の出前は問い合わせるたびに"今出ました"と言う」などと、不誠実の象徴のように言う輩がいるのだが、我が家のご贔屓のそば屋は非常に誠実で、電話をすればすぐに届けてくれた。そのお店の名誉にかけて、そば屋一般を馬鹿にする奴は許せない。


 さて、今回の本題はそば屋ではなくピザ屋である。90年代の中ごろ、我が町にもピザ屋が出来た。正確に言えば「わが町を宅配の範囲内とするピザ屋ができた」だが、とにかく折り込みチラシが入ってきたので、珍しさから注文してみたのだ。昔ながらの「出前」ではなく「宅配」という言葉にこだわるのが、なんだか新しい感じがした。


 旧来の出前と異なるのは、容器を返却する必要がないということだろう。蕎麦などをとった後は玄関先に丼を置いて回収してもらうが、ピザは使い捨ての紙箱なのである。


 最初にできたピザチェーンは「ピザーラ」だった。初めて注文したのはモントレーだったはずだ。ポテトとマヨネーズのピザというのは他で見たことがなかった。その後も新商品が出るたびに注文していた気がする。オレガノチキンやネギベエなどの全く新しい味を楽しんだ(今はもう無いようだが)。ハーフ&ハーフが登場してからはさらに色々な味が楽しめたっけ。


 さて、ピザーラができる前からアニメなどで宅配ピザの存在は知っており、「30分以内に届かなければ無料」という話も聞いていたのだが、我が家の最寄りのピザーラは普通に1時間前後かかった。これは立地の都合で仕方ないのだが、これにより「ピザは(近所の蕎麦やトンカツより)時間がかかる」というイメージが根付いてしまった。


 宅配ピザを巡る思い出は、ほぼ小学生の頃のものである。中学に上がると休日に家族が揃うことも少なくなり、注文する頻度が激減した。大人になっても自腹で注文したことは実は一度もなかったりする(友人宅などで食べたりはした)。配達のエリア外に住むようになったり、そもそもオーブンで自分で焼いたほうが早いということに気づいてしまったり。


 今後も、積極的に宅配ピザを食べる機会はもう無いと思うのだが、子供の頃の楽しかった思い出として記憶に残り続けるのだろう。ただ、オレガノチキンはもう一度食べてみて味を確かめてみたい。当時はオレガノが何なのかすらよくわからなかったのだから。有田気恵(きーちゃん)が出ていたCMの「オレガノチキン!チキン!チキン!」というセリフが未だに頭に残る。

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