第50話 番外編① 罪深き聖人・6
どうして。
どうして。
こんな老いぼれになっても、その答えは見つかっておらん。
ただ、な……それを追い求めた中でワシは一つだけ知ったことがある。
どんなに苦しんでも悲しんでも嘆いても、その後で腹が減るのが人間じゃ。
それで良いのじゃ、といつか思えた時に、同じ人間の弱さや醜さを許せたり、共感したり、受け入れられたりするようになる。
罪を犯さぬ者はおらぬ。
言い換えれば罪を知らぬ相手は、人の心の悩みや痛み、悲しみも分かる者ではないしのう。
『命は殺さねば生きられぬ。殺させて命は活かす。活かされて命は賑やかに。そして、殺されてよみがえる』――女神像の台座に彫られていた言葉の意味が、その不可思議な循環が、この年になってようやく分かってきたわい。
あのド変態の若造と切れ者の令嬢がゴドノワから生み出しているポーションのおかげで、ワシの出番も少しずつ減ってきた。
ありがたいことじゃ。ワシももう年で、体が辛い時が多いからのう。
酒はじゃと?
嫌じゃ!死ぬまで手放すものか。
そうだそうだ、ワシの墓石には酒をかけてくれ。
たっぷりとじゃ……な、な、どうかよろしく頼むぞ?
帝国は随分と落ち着いてきて、内乱の時と比べたら孤児の数は格段に減った。アリスタ陛下の力添えもあって、神殿とその制度にワシはてこ入れを行い、少しずつ風紀を改めている。
もう愚かしく空しいだけの酒池肉林はさせん。神殿を真に女神様を崇め、苦しみ悩む人を助け、スキルという可能性を見つけて世の中の役に立てるための場所にするためにな、この老骨に鞭打っておる。
……スキルについて言えば、最近、面白いことが起きておる。
ゴドノワからの肉を長年食べている者は、生まれついての身分に関係なくスキルが発現するようなのじゃ。
恐らくあれらの肉は微量の魔力を有しておる。魔獣の血を引いているからじゃろうな。
食べることでほんの少しずつ体に溜まり、一定の所を越えるとスキルとして発現していくのじゃろうて。
無論、毒ではないぞ。
各自の体に溜められる魔力の量には個人差があっての、己の限界を超えれば自然に排泄物に混じって出てしまうからのう。
は?あの肉を食べ過ぎたら腹が痛いじゃと……莫迦者、それはただの食い過ぎじゃ!毒も何もあるか!
……まあ、魔族がスキルの上位に当たる魔法まで使えるようになったのは、恐らく魔力の豊富なゴドノワの地に長く住んだことで、体質的に人間よりも多くの魔力を保有できるようになったからじゃろうな。
「じいじ!おにごっこ!」
「だめ!じいじ!かくれんぼするの!」
「おえかきよ!じいじ、じいじーーーーー!だめー!!!」
「つみきー!!!つみき、つみき、つみきなのー!!!!!」
さて、ワシも年じゃ、いい加減にそろそろくたばるじゃろう。
だがもう少し、どうしてと追い求めていても良いだろうか……女神様。
どうしてワシに幸せであることを許して下さったのですか。
どうして。
どうして。
心から、御礼を申し上げますぞ。
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