第47話 番外編① 罪深き聖人・3
ワシの苦しみはさておいて、彼らの苦しみをどうにかせねばならん。
特に子供や赤ん坊に罪はない、このワアワアギャアギャアと絶え間なく泣きわめくのをどうにかせねば見殺しじゃ。
とにかく金勘定をして育てねばならんし、何なら就職先まで斡旋せねばならぬ。
そう言う時に、元皇族の肩書きと、教父の法衣がとても役立つことをワシは経験で知っていた。
やけ酒くらい、まあ許せ。
手放したかったものを不条理に抱え込んだ大罪人が、聖人だの大教父様だのと崇められるのが一番嫌じゃったんじゃ。
確かに酒は毒じゃ、だが飲まぬと心の毒が溜まる。
公然とそろばんを弾いて酒を飲むワシを、『破戒者』と神殿の連中が罵るので有り難くそう名乗ることにした。ワシは公然と金勘定をして酒を飲む、だが隠れながらも貴様らは毎日毎晩、酒池肉林の豪遊をしておるのにな。
まあ、他人の欠点しか人は分からんものじゃからな。
ワシに言わせれば、自分の欠点が分かるか分かろうとする人間はそれだけで教父になれるぞい。
丁度良いわ、ゲマトリウス・シートリ・サダィ・ロースタレインと一々名乗るのはもう面倒だったでの。
これからはワシは『破戒者』ゲマトリウスじゃ。身軽で良いわい!
ハークをレンベルティンの街の市長夫妻に養子に出したのは、たまたまじゃった。
『出来るだけ優秀な娘婿が欲しい』
この夫妻は下心を丸出しにしとるだけまだまともじゃ。酷い時は養子と言っておきながら夫の愛人にしようとしておったでの。
その時ワシの元にいた子供の中で最も聡かったが、その分世の中に対して酷く冷めているハークを連れていった。
「ゲマトリウス様。あんなに大きな街の市長夫妻が養子を求めているなんて、良い条件過ぎておかしいでしょう。何が裏にあるんですか」
「ハークはやはり頭は良いの。市長夫妻には娘がいての、娘婿にしたいそうじゃ」
「ブサイクでも僕は我慢できますよ」
「女は笑顔と性格じゃ。ワシが断言する。その上で冷静に話し合いが出来る相手ならば、もう間違いは無いぞ」
「でも女のほとんどは感情的じゃないですか」
「そりゃあ相性が悪いだけじゃよ」
「はあ」
しかし冷め切っていたハーク張本人が連れて行ったその日の間に、セレナ嬢に完全にのめり込んだ。
セレナ嬢はそれほど美人では無かったし、気が弱い所もそうじゃったし、他にも欠点も多々あったが、その分大事に慈しまれて育てられたのじゃろう。優しくて穏やかでほんの少し微笑んだ顔がなんとも愛くるしかったのじゃ。
「本当に良いのか」
野暮とは思いつつ確認する。まあ、これで駄目だとワシが言ったら一生恨まれるじゃろうなあ。いやいや、墓石を蹴倒されても文句は言えんぞい。
「ゲマトリウス様!何でもっと早く僕を彼女に会わせてくれなかったのですか!お人が悪い!」
若いのう。良いことじゃ。
「この子ならば今後しっかりと鍛えれば問題もないでしょう」
「ええ、これからが楽しみですわ」
市長夫妻もニコニコとしておった。その後ろに隠れてセレナ嬢は恥ずかしそうに照れておったわ。
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