第46話 番外編① 罪深き聖人・2

 その後は若さと愚かしさの塊のような行動ばかりワシは取った。

次の日には神殿に駆け込んで、ほとんど大教父を脅すようにして世俗と縁を切った。

父も母も臣下も臣民も全員が仰天したぞ。特に母はワシを連れ戻そうと手を尽くしたが、ワシはもう心を決めていた。

この一生涯、女神様に仕えると。


 母はワシの説得に3年をかけたがついぞ諦め、ワシの同母弟を皇太子にした。その代わりにとワシは去勢させられた。男としては一生どころか永遠の屈辱になるのだろうが、ワシにとってはむしろすがすがしかったぞ。これで真実、女神様にお仕えできるとな。

しかし……まあ、当時から神殿や教父共は腐っておった。遊女を連れ込むならまだマシな方じゃ。弱い者を虐げ、彼らから奪った金を勘定し、それで虚飾まみれの贅沢をし、スキルの素晴らしさばかり語って、スキルを与えて下さる女神様は蔑ろにする。教父として誰にも平等であるべきなのに、世俗の身分をそのまま神殿に持ち込んで上下関係を作りあげておった。

ワシはたまたま皇族出身じゃったからヤツらの頂点に立たされておったが、あんなに嫌な場所は無かったわい。

しかもスキルで『治療』が見つかった所為で、ますますチヤホヤされたのじゃぞ。

ワシが女神様から頂いた力でただ『治療』をするだけなのに、教父共も一般の臣民から高い金を取り、威張り、ことによっては脅して服従させ……あんな場所で2年もワシは良く耐えたと思う。


日に日に女神様にお仕えしたい気持ちが高まっていたワシは、ある日とうとう神殿を出奔した。

それからは野っ原で暮らし、断食をし、滝に打たれ、徹底的に己の体を追い詰めた。


どうして。

どうして。


その言葉だけがワシをそこまで追い詰めておった。

まあ若かったのと、『治療』があったから、多生の無茶は出来たしの。


……しかし、かえってそれが良くなかったようじゃった。

「荒野に聖人がいらっしゃる」

「ただで『治療』を施して下さる」

「元々は皇族だとか」

「されど我らにも居丈高ではなく平等に接して下さる」


 ……何もかも捨てたつもりじゃったのにな。


誰じゃ!どこのバカ親じゃ!育てられないからと子供や赤ん坊をワシの所に捨てたのは!

お願いしますだと!?ふざけるでないわ!

寄付なぞ止めい!金を置くな物を置くな食料を置くな!

ワシは物を持たんと決めたのじゃ!

じゃからワシを拝むな!ワシは拝まれるような人間ではないわ!

拝むならば女神様を拝め!


 ……ワシが苦しんでいる以上に、世の中の人間は苦しんでいたようじゃった。

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