第44話 ちなみにここまで完全童貞だからね?

 それから半年後。

諸々が落ち着いてきたので、再来月からはデューバル温泉郷の本格的な経営に乗り出そうとガブリエルと話し合っていた。

「まずは現状の視察に行こう。何なら二人で温泉にじっくり浸かってさ、効能を実感した方が宣伝もやりやすいかも知れないし」

「変態!」

いきなり、そう叫ぶように言ってガブリエルは顔を真っ赤にした。

「え?」

「「「「御主人様はホンモノの変態だ……!」」」」

フェンリルもニーズホッグもフレスベルクもガルムもみんな口を揃えた。

「ど、どこが!?」

「全部よ!だって温泉に入る時は、出来るだけ裸になるのがデューバル温泉郷でのマナーでしょ!?」

――あ。

あ、ああ!

うわあああああああああああ――!!!

「変態ですみませんでしたァ!!!!」

ほとんど反射的に俺は土下座した。

俺に『土下座』ってスキルがあってもおかしくないくらいに、見事な土下座を繰り出す。

「………………別に。アルセーヌなら嫌じゃないけど……」

え?

「「「「御主人様なら嫌じゃない!」」」」

こ、これは、まさか。

俺は、そっと、ゆっくりと、慎重に、頭を上げながら考える。


 ……これは……ついに……いよいよ……その、女の子と手を繋いだことも無い完全童貞……否、『童帝』の俺に春の季節が巡ってきたと考えても良いのだろうか?


 良いよな?

 良いんだよな?

 良いんだよな、ガブリエル!?

 手を繋いで、キスしても良いんだよな……!?


 土下座から、よっしゃあと威勢良くガッツポーズした俺を見たガブリエルが、ドン引きした顔をする。

「何、その変態顔。もしかしてあわよくばキスとか考えている?……やっぱり嫌……」


 ……。

あのさ、女神様。

俺にこんなにも沢山のどすけべスキルを与えてくれたのはもう何も言わないけれどさ。

どうして俺に『魅了』と『イケメン』と『モテモテ』のスキルをくれなかったの?

……でもこの場面でそう言うスキルに頼ったら、俺がただの気持ち悪い変態から、正真正銘の卑怯者になってしまう。


 「そっか……」

俺は期待した分だけ気落ちして、初めて俺自身の『エロステータス開示』をやってみた。

自己処理だけ一人前か……。

……今すぐにゲマトリウス様の所で俺も世俗と縁を切りたくなってきた。

でも世俗と縁を切るなら、せめて……ガブリエルとキスをしてからが良いな。

この分だと、未来永劫に不可能だろうけれど。

ヒモって中々哀しい存在だな……。

「キスしたこともない気持ち悪い変態で本当にごめん……」


 「えーっ!じゃあ御主人様の初チューはボクがいただき!」

「ふざけるな私だ!」

「邪魔しないで、このあたしよ!」

何かモンスター娘達が揉め始めたぞ。

「やった!アタシが一番乗り!」

争いから抜け出したフェンリルが俺に飛びついて、あれ、あれ、これは……とても不味いのでは?

妖艶に赤い唇が近付いてきて――。



 「駄目よ!私のアルセーヌなんだから!」




 あっ、


 。



 人生初にして最高の奇跡が起きた。

 俺のエロステータスの項目が、キスの所だけ『1』に変わったのだ。

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