第41話 たった一人に依存している国
「そもそも国家と国家の政がただ一人の人間に依存して成り立つこと自体が異常なのだ」
陛下は断言した。
「朕の代で皇族は国家権力と縁を切り、権威と象徴のみの存在にする。
朕が存命でなくなろうと、愚かな皇帝が続けて立とうと、このロースタレイ帝国が安定して維持されていくようにな」
「それで……本当に良いの?」
ガブリエルが訊ねると、
「良いも何も。エルマーと睦まじく過ごす以外の何が朕の人生にとって重要なのだ?
ガブリエルもそうだろうに」
あはは、とガブリエルは声を出して笑った。
「そうだね。そうだ。ヒモのアルセーヌと私も生きていきたいからね」
「ふん。うぬらは揃いも揃って莫迦だ。
――今からの帝国議会の主議題はアザレナ王国への対応如何だ。事の次第によっては……うぬらも覚悟せよ」
帝国議会の傍聴席に座って、俺達は議会の様子を見守る。
ほとんどの議員がアザレナ王国が外交官を無理矢理に国外追放したことには激怒していたが、先の8年も続いた内戦もあったので開戦には消極的だった。
まあそうだろうな、と俺も思っていたら、背後が急に騒がしくなった。
この議場の大扉の向こうで誰かが揉めているようなのだ。
「何だ……?」
誰かが呟いた途端に、衛兵を押し切って大扉を開けた傷だらけの兵士が入ってきた。鎧からしてペガサス飛翔騎兵だろう。
「――何事だ!」
デズ卿が険しい声を出し、陛下や議員達を守ろうと近衛兵が武器を構えた。
「ご注進!!!」だがその兵士は俺達に敵意が無いことを示すように衛兵に組み伏せられるままに床に倒れ、それでも絶叫した。「先ほどアザレナ王国軍の先遣隊が国境のノルベ大河を越え、国境警備部隊と交戦!しかし数に押されてポーティ村とビニギ村が占領されました!」
「「「「「「「!」」」」」」」
それぞれロースタレイ帝国の東北にある小さな農村で、アザレナ王国との国境であるノルベ大河からは歩いてほんの数分の距離にある。
そこから少し南に下るとシーウンの街にも繋がるフィウラの大街道があって――。
「現在フィウラの大街道沿いに東北第15から19部隊が展開しております!アザレナ王国軍と既に交戦中!国境警備部隊の隊長パトロは戦死!どうか!どうか援軍をお願いいたします!」
陛下はすぐに決断した。
ここで一瞬でも後手に回れば帝国の東と北の全域が危うくなる。
「これよりロースタレイ帝国は総力を以て侵略者を撃滅する。
異論のある者はここにいるか!」
誰もが椅子を立って声を揃えて叫んだ。
「「「「「「「帝国に勝利と栄光を!」」」」」」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます