第40話 ざまぁの下準備
そろそろアザレナ王国から追放されて早3年かー、なんて思っていたある日、ブロワン大魔森で働いていた魔族の人達がボロボロかつ酷くやつれた少年を連れてきた。
身元を聞いてみたら、元シルヴィーン伯爵令息だった。
……事情を聞くと案の定、今年は『断罪追放劇』があったそうだ。昨年と一昨年はたまたま無かっただけらしい。
スキルが貧弱なものだからって華々しい卒業パーティで徹底的に侮辱されて、家族からも縁を切られて、このゴドノワへ追放されたのだそうだ。
「ここが……こんなにも栄えている所だったなんて知りませんでした」
アザレナ王国の誰もが知らないんだろうな。
いや、知っていたら絶対に追放先には選ばないだろう。
この『魔境ゴドノワ』だった場所が、今や『黄金郷』『新世界』とロースタレイ帝国では呼ばれ、熱い視線を向けられているってことを。
『ゴドノワのものは石礫や塵でさえ金塊になる』と商人から優先的に投資して貰えているのだ。
俺とガブリエルは相談して、まずはエルマーへ手紙を書いた。
二日後に返事が返ってきた。
とても綺麗な文字で、『至急帝国城に参内するようにと陛下の仰せです。デズ卿も同意されています』と書かれていた。
――帝都ロースタレイントの北部にある帝国城に久しぶりに登城した。
午後からは緊急議会が開かれると言うことで、俺達はまずデズ卿やデズ卿のご夫人にご結婚祝いとして最高級のガラス細工を渡しに行った。他の議員や主立った立場の者にはハイ・ポーション、そうでない者にも気前よくミドル・ポーションを挨拶がてら配って歩く。緊急議会が開かれるだけあって、少し雰囲気が物々しかった。
半日かけて一通りの挨拶が終わってからエルマーに、エルマーの大好きな魔牛肉を塩漬けにして熟成させている包みを土産に会いに行ったら、陛下もいたので俺達は驚いた。
安心しろ、二人に『エロステータス開示』は使っていない。
使わなくても良い雰囲気だったから、野暮は無用だろうと思って。
「お元気そうで何よりです、ゴドノワ両男爵」
……大きくなったな、エルマー……。
少し寂しくて、少し嬉しくて、少し誇らしい気持ちになる。
「貴君もお変わりありませんでしたか、ソブリ伯爵」
「ありがとう、ご覧の通りに息災です」
「止めだ!」いきなり不機嫌そうに言ったのは陛下だった。「この場だけでは敬語は無しだ」
「うん!」エルマーはあの無垢な笑みを浮かべた。「そうするよ、アリスタ」
「……うぬが敬語だと、朕の調子が狂うのだ」
ガブリエルも俺もつられて微笑んでしまう。
陛下は軽く咳払いして、顔を改めた。
「ところでだ。どうしてこれから緊急議会が開かれると思う」
「……追放以外に、アザレナ王国が何かをやった?」
「そうだ、ガブリエル」陛下は苦々しい顔をした。「昨日の夜に王都に駐留していた帝国の外交官を全員国外に追放しおった。おかげでノルベ大河近くの国境警備部隊は昨夜から臨戦態勢だ」
「「!!!」」
他国の外交官を全員、自国外へと追放する。
それは『もはや武力交渉以外は受け付けない』――つまり宣戦布告と同義だった。
「どうしてだ!?国力の差は歴然としているだろう!?」
帝国の方が元から圧倒的な兵数を抱えている上に、各地も落ち着いてきている今となっては圧倒的な兵士を動員できる。俺達がこれ幸いと売りまくったポーションで兵士達の健康状態も最高調なのだ。
「ガブリエルを追放してから、かの国は迷走しておる。政治は滞り、民も貴族も王族も全員が何かしらの不満を抱え、そのはけ口として皇族派と手を組んで帝国の領土を狙ったものの――何の成果も上げられなかった」
陛下はアザレナ王国で鋳造されている金貨を取り出して、手のひらに乗せた。
「今、商人の間でこれがどれほどの価値を以て取引されていると思う」
「アザレナ王国の貨幣の価値が……そこまで下がっているの?」
「大の大暴落も良いところだ、ガブリエル。
アザレナ王国に出向いて売っても儲からぬのに赴く商人はもはやおらぬ。帝国からの品が入らぬから王国では物価が上がる。だが王国は何もせぬから、品に対しての貨幣の価値は相対的に下がっていくままだ。そんな貨幣など要らぬと商人は余計に敬遠する。
この負の連鎖だ、
……その一方で、ゴドノワと言う理想的な投資先が栄えてきた。落ち目のアザレナ王国との縁に縋るより、スッパリと手を切って新たにゴドノワに出資した方が儲かるのは見えているからな」
……もしかしてガブリエルは意図的にやったんじゃないか?
俺は今更、それに気付いた。
だってアザレナ王国の凋落とゴドノワの隆盛が、あまりにも対照的だったから。
これで無意識にやっていた方が恐ろしいな。
ガブリエルの横顔を見るに――どちらかかも知れないし、半分ずつかも知れない。俺には区別が出来なかった。
でも、そこが良いんだよな。
俺はガブリエルのそんな怖いところが好きなんだから。
「失敗は失敗で塗り重ねられるんだよね……」
エルマーが呟くと、陛下は頷いた。
「ガブリエルを追放してからその兆候はあったが、正直ここまで短期間に悪化するとは思わなんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます