第38話 己の利益になるもの

 俺達の予想は的中した。

ユーディンはあのポーションの大半をゲマトリウス様とデズ卿へ渡したらしい。

そこから瞬く間に広まって、一月後にはデズ卿から特使としてゴーディンさんが派遣されてきた。

「火薬同様に帝国で独占したいそうだ。独占の代価として何が欲しいか訊くようにと言われてきた」

これは案外、思っていたより計画が上手く行くかも知れない。

「実は、キプトチャ湖からマール大海をつなげる運河が欲しいんですよ。このゴドノワには先だってお渡ししたポーションと同じかそれ以上に価値があるものがまだあります。それに、この運河が出来さえすれば、火薬だって大量かつ迅速に船で運べますからね」

「ふうむ……」

唸ったゴーディンさんへガブリエルが一気にたたみかけた。

「議会派の人達は商人出身が多いでしょ。たったこれだけの短期間に、今後も圧倒的な利益が見込める品が2つも見つかったゴドノワと、それを唯一加工できるゴドノワに住む魔族ともっと密接しておいても、損なことは何も無いと思うけれど?」

「……俺が『全くそうだ』と思っても、事情をデズ卿らに伝えることしか出来ない。

……あのポーションは衰弱していたデズ卿夫人や重傷者の体をあっという間に癒やした。ゲマトリウス様お一人のスキルだけでは出来ることにも限りがあって困っていたのだ」

「それは良かった。これは追加分のロー・ポーション。効力はこの前に渡したミドル・ポーションより下がるけれども、その分大量に安価に作れるから。

重傷者がいれば軽傷者はもっといるでしょ。彼らにとても良く効くと思う」

ガブリエルはそう言って、木箱を指さした。

「……有り難いな。とても困っていたんだ」


 次に特使として来たのは……ネイ将軍と、議会派の重鎮の1人で今は帝国議会の議員になっている土木工事関係のギルドマスターの人だった。

ギルドマスターは陛下の御璽が押された書類を見せて、

「キプトチャ湖とマール大海を繋ぐ運河の工事についてだが、陛下より正式な認可を賜った。費用も国費にてまかなって下さる。運河の名前は必ず『エルマー運河』と名付けよ」

「謹んで。……ですが、あの、将軍閣下……その、エルマーは元気ですか?」

エルマー運河って……まさか……?

ネイ将軍は、どこか呆れたような微笑ましいような、何とも言えない顔をしている。

「彼が『ソブリ伯爵』に列せられたことを魔王に伝えるために私が来たのだ」

俺達は驚いた。

ソブリとは歴代のロースタレイ帝国の皇帝とその一族の墓がある聖地の名前で、必ず皇帝の配偶者となる者がその地を治めることになっているからだ。


 「デズ卿が徹底的にしごいているが、へこたれもせずに見事にやっている。彼は純粋無垢に見えてなかなかのくせ者で、かなりの強者だぞ。陛下とも上手くやっていけるに違いない」

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