第37話 一儲けしたい
イリアディアの里に帰った俺達は、まず『道』を開拓することにした。
魔境ゴドノワのほぼ中央にあるイリアディアの里は、東がブロワン大魔森、北がデューバル温泉郷、南がドバド奇岩地帯に囲まれている。
とにかく深い森だったり、温泉があちこちから湧き出る場所だったり、砂地と岩壁の光景が続くため迷いやすくて、不慣れな人間が徒歩で行き来するにはかなり危険だったりする。
――ただし。
ブロワン大魔森では質の良い木材が採れるし、珍しい薬草が採取できるし、魔蚕が食べるマナ桑も生えていた。他にも新しい素材の元になりそうなものがあちこちに転がっている。
デューバル温泉郷の温泉は傷や体の痛みにも効能がある霊泉らしくて、この温泉水を元に加工すれば最上級のポーションだって作れるだろう。
ドバド奇岩地帯には、硝石が採取できる場所があると分かっている。
ガブリエルが言うには、硝石は火薬だけじゃなくて、質の良い肥料を作る時にも使えるのだそうだ。
そうなると――商都シーウンや帝都ロースタレイントと繋ぐ交易の道が必要になる。
出来れば海路が良い。海運は陸運や空運とは比較にならないほどに大量に運搬できるから。
「ここの西……ガルムが湖畔に棲んでいたキプトチャ湖からマール大海に繋がる運河を作りたいよな」
イリアディアの里からも近いし、周辺の土地は平坦だし、船でマール大海にさえ出ることが出来れば、ディッガダッカの港町を経由してシーウンの街や帝都にもあっという間に品物を行き届けられる。向こうからも色々な物が来るだろう。
「うん。でも工事の費用を捻出しないと。何か金になるものを作ってみよう」
「だったらまずはポーションじゃないか?まだ戦争は完全に終わっていないし」
アザレナ王国の存在もそうだが、皇帝陛下の即位に未だに反対する貴族派や皇族派もあちこちでくすぶっているのだ。
ガブリエルは少し考えて、
「そうだね。となると、高品質だけれど数があまり生産できないハイ・ポーションよりミドル・ポーションを沢山作って売りさばくのが良いかな。まずはイリアディアの里に駐屯する部隊の人に試しに使って貰えば、多少はペガサスで運搬もしてくれるかもね」
ブロワン大魔森で採れるいくつかの薬草を煮出した薬液に、魔族の人だけが使える簡単な治癒魔法を加えて、そこにデューバル温泉郷の温泉水を、ああでもないこうでもないと試しつつ調合する。
ポーションの調合に成功したら、ドバド奇岩地帯に無限にある砂を熱して溶かして作ったガラスの瓶に入れ、イリアディアの里で飼っているピピ蜜蜂のミツロウで簡単な封をして……完成!
「何だこれは?」
ゴーディンさんの次の駐屯部隊の指揮官になったユーディンが枯葉を緩衝材に箱一杯に詰め込んだポーションの瓶を見て、首をひねった。
「まさかとは思うが……ポーションか?」
「隊長もレンベルティンの街で落ちた時にあちこち骨折して、まだ後遺症が残っているんだろ?」
試飲して貰った魔族の何人かは、かつてニーズホッグの毒を浴びて中毒症状で長らく苦しんでいたけれど、今ではデューバル温泉郷の温泉水や、乾燥させた薬草の木箱などをせっせと運んでくれているのだ。
「左手の指先が少し痺れるくらいだが……」
毒では無さそうだと分かってくれたのだろう。ユーディンはミツロウの封を指先でこじ開けて、一口、飲んでくれた。
「!」
ギョッとしたようにユーディンは瓶から口を離し、左手を見つめた。
何度も指先を動かして、確かめている。
「おい……麻薬じゃないだろうな?」
「麻薬を売ったら見せしめに拷問されてから火あぶりだろ?それは嫌だ。
俺達はこのポーションを売って金を作ってキプトチャ湖からマール大海に繋がる運河を作りたいんだよ」
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