第21話 良心ことエルマー

 出陣した俺と兵站業務に携わっていたガブリエルそれぞれで報酬を貰ったので、見物も兼ねてシーウンの市場をガブリエルとエルマーと一緒に歩いていたら、お忍びで出歩いている皇女殿下と出会った。皇女殿下はお忍びのつもりかも知れないが、背後には何人か護衛の騎士らしき連中がいた。

「デートか?」

「「違います!」」

エルマーが驚いた。

「違ったの!?僕こうやってみんなで遊ぶことをデートって言うんだと思っていたよ……」

俺達は慌てた。

「そ、そうだよエルマー、ガブリエルとのデートじゃないって俺は言いたかっただけなんだ!」

「ええ!私もエルマーのためのデートって言いたかったの!」

「なーんだ!やったぁ!」

「……。朕と違って随分と純粋無垢な子だな」

呆れた様子の皇女殿下にエルマーはまぶしいくらいの笑顔を向けた。

「ええと、世間知らずってこと?うん、そう、僕は世間知らず!ずっとイリアディアの里で暮らしていて、帝国のこともほとんど知らなかった。何も知らないまま死んじゃうはずだったんだ。でもアルセーヌさんとガブリエルさんのおかげで生きている。

ねえ皇女殿下、僕に色んなこと教えてよ!僕は色んなことを知って、自分の頭で考えて、決めて、行動して、これから生きていきたいんだ!」

エルマーって……前々から思っていたけれど、本当に真っ直ぐで明るくて、可愛いな!

「莫迦か」

皇女殿下は呆れたように呟いた。

「まあ良い。朕に暗殺者を放った兄とは違って『まとも』だ」

「えっ……お兄さんが、殺そうって……?」

エルマーは絶句した。ユリアリアちゃんのために犠牲になろうとしたエルマーには理解不能だろうな。

「権力を求めるが余りに仮令、血肉を別けた家族であろうと殺し合う。それが世の常、人の常だ。うぬらは疾く去れ。……そろそろ釣られて出てくる頃だからな」

俺達は頷いて、言われた通りにここから早く去ろうとした。


 エルマーが何度も振り返って皇女殿下に声をかけようとしていたけれど、俺が抱きかかえるようにしてその場を後にする。


 ――もし俺の予想が的中していたら、これ以上、俺達があの場にいるのは不味い。

フェンリル達がどこか落ち着かない様子なのも、気になる。

俺はガブリエルに言った。

「ベルナール・ダヴーのスキルをご存じですか」

俺の兄だった男のことだ。当然知っているガブリエルの顔が引きつった。

「『暗殺術』の……!」

「もしも本当にアザレナ王国が関与しているなら、最初の手助けとしてヤツを派遣しかねない!」

皇太子が差し向けるほどの凄腕の暗殺者、俺にはヤツくらいしか思いつかないんだ!

「おまけにあの男は、周囲への巻き添えを一切考慮してこなかったじゃないか」

例えば毒を使うならば、毒煙をぶちまけて無関係の人間をも巻き添えにしてきた。

あの男は誰かを虐げたり痛めつけたり苦しめてから殺すことに至上の喜びを見いだすサイコパスだから。

「皇女殿下が!」

エルマーが叫びそうになった口をガブリエルが押さえてくれた。

ありがとう、助かる。


 俺はガブリエルとエルマーとガルムに頼んだ。

「このまま騎士団の詰所に駆け込んで、増援を頼んでくれ!俺達は戻る」

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