第19話 常識改変はエロ目的じゃない!

 俺もフレスベルクに乗ってディッガダッカ奇襲作戦に参加する。

最悪の事態に備えるためだ。

この奇襲作戦を指揮するのは百戦錬磨の女将軍、オルレーナ・ネイ将軍である。

「君は人を殺したことはあるか、アルセーヌ・ダヴー」

隻眼が静かに俺を見据える。

「ありません、閣下」

「ならば君は後方待機していろ。敵前逃亡だけはするな。問答無用で死罪だからな」

「はい、閣下。1人でも逃げれば戦列が崩壊する可能性があり、戦列の崩壊は戦線の崩壊を招き、戦線の崩壊は敗北を意味する、でしたっけ」

「座学は修めているようだ、よろしい。君の任務は『感覚遮断』に異常が発生した場合に即時対処することだ。具体策として何がある?」

「閣下、スキルを持っている者の弱点って閣下は何だと思われますか。俺は『スキルを使わずにはいられないこと』だと考えています。しかも相手は今までスキルを使って、圧倒的な戦果と成功体験をたたき出してきた男です」

だから、と俺は提案した。


 「スキルに関しての、ヤツの常識を書き換えます」



 夜明けと同時にペガサス飛翔騎兵1500がディッガダッカの港町の城壁を飛び越え、奇襲を仕掛けた。

対するのは歩兵2000と騎兵が1000――その半分は休憩中。

通常ならば圧倒的な殲滅力と機動力を持つペガサス飛翔騎兵の相手にはならない。

更に彼らの大半はディッガダッカの港町で行われた虐殺に激怒していて、戦意も士気も非常に高い。

でも、通常じゃないことが起きるのが戦いの常だ。


 ――城壁の外で、ずらりと並べられた遺体にたかっていた無数の魔獣達が我先に逃げ出した。

低く、4人のモンスター娘達が唸り始める。俺達は鐘楼の影に隠れてあちこちを探していたが、激戦の向こう――神殿の奥から、痩せぎすの中年の男が現れたのをとうとう見つけた。

身なりや威圧感からして、コイツがクロディアスで間違いなさそうだ。

既に『恐怖』を使っているのだろう、とても余裕たっぷりな態度だった。

「――フェンリル!」

巨大な魔獣の姿になったフェンリルは俺達を乗せて軽々と建物の屋根を飛び越え、神殿の屋根に走り登った。


「ふふ、必死に愚民が戦っておる。愚かなものじゃ、朕が一度スキルを振るえばそれっきりだと言うに……」

そうクロディアスが嘲って『恐怖』をもう一度発動させようとした瞬間――俺は『時間停止』を発動させた。

「今すぐに殺してやっても良いんだけど、俺が殺したんじゃ意味が無いからな」

親類縁者を殺された彼らがやらなければ、あの骸の山々を、犠牲にされた人々の魂を、本当の意味で弔うことにはならないだろう。


 『常識改変』


 ――時間を停止させてまで、俺が書き換えたのはほんの小さな常識だ。

『スキルの使用範囲はクロディアス本人だけ』

保険として、『淫紋』と『洗脳』も仕掛けておく。

仮に常識を突破できてもそこから先は1人だけじゃほぼ解除させないように。

運良く突破できた頃には、『淫紋』も『洗脳』も完了しているように。


……とても頭の良い皆様です、もうお分かりいただけているでしょう。

俺が時間停止を解除した後で、クロディアスがどうなるかを。



 「――あへッ♡♡♡??!?!」


 「な、何だ貴様!」

「どこから近付いた!?」

側近達がいきなり現れた俺に驚いて襲ってきたが、それ以前にさ、ぶっ壊れ中のクロディアスを気にしてやれよ……。


 「――こわしゅぎておかひぐなりゅううううううううううううううううううううう?!?!?!?!?☆☆☆☆☆アヘギャアッ!?今までこわがりゃしぇてしゅみましぇんでひたぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ♡♡☆♡♡!!!!?うひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!??!?!☆」


 フェンリル達が迎撃のために側近相手に暴れている中、俺は約束の赤い狼煙を上げた。

返り血まみれのネイ将軍達が飛んできて、クロディアスを捕縛してくれた。


 「者ども!――敵の指揮官を捕らえたぞ!」

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