第14話 俺達の第二の故郷
正に、皇女殿下が自らやってくる三日前だった。
フレスベルクが棲んでいたドバド奇岩地帯を探し回った結果、硝石を安定的に採掘できる場所を俺達は見つけていた。ニーズホッグが気づいたのだ。
帝国へ出発する前に、火薬の丸め方と火薬の調合方法については機密にして、門外不出にするようにヘルナレアさんに頼んでおく。
「無論じゃ。これが妾達にとってのただ一つの金脈なのじゃからな」
ヘルナレアさんは火薬を丸めて並べている光景を見て呟いた。
この火薬は湿気を吸わないから、雨の多いイリアディアの里でも安定的に生産できる。
「火気には気をつけて下さいね。下手をすればイリアディアの里が全部吹き飛びますから」
ガブリエルが念を押すと、ヘルナレアさんは深々と頷いた。
「応とも。金塊を己の手で海に沈める愚か者にならぬよう努めるぞえ」
「お前らの家、毎日掃除しておくからな!」
「いつでも帰ってこいよ!」
「助けてくれたこと絶対に忘れないからな!」
「待って!」
ペガサス飛翔騎兵隊と一緒に出かけていく俺達を見送ってくれる魔族のみんなの中から、荷物を背負ったエルマーが飛び出してきた。
俺達はフレスベルク(鳥)に乗ろうとしていた所だった。
「僕も行くよ!人質が必要なんでしょ!?」
「エルマー、この先は内戦中のロースタレイ帝国だぞ。安全な場所じゃないんだ」
俺は止めようとしていた。ガブリエルも同じ思いだったのだろう。
「ヘルナレアさんが許さないでしょう?」
エルマーが叫んだ。
「母さんは許してくれたよ!僕はフェンリルに食べられて死んじゃうはずだった。でもアルセーヌさんのおかげで生きているんだ。もうこれからは生きているだけで儲けもの。だから僕の自由にしなさいって!」
「追放されてから居場所を見つけようと必死だったけど……もう、俺達には帰る場所があるんだよな」
「ええ。悪魔と魂の取引をしてでも生きて帰りましょうね」
「上等。神相手の恐喝だってやってやるさ」
俺達はフレスベルクに乗って、高い空からの光景に目を見張っているエルマーを見て、頷き合った。
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