第12話 夜明け前の襲来

 飛竜に乗ってイリアディアの里に来たロースタレイ帝国の行商人に火薬の試供品と扱い方を渡して教え、その威力を見せつけてから1週間後。


 ……俺は外が騒がしいので目を覚ました。

まだ鶏が鳴く前で、辺りは真っ暗だった。

「「キャンキャン!」」

子狼ズが吠えている。フェンリルもニーズホッグもガルムもフレスベルクも雰囲気を険しくしている。

『アルセーヌという男を出せッ!ガブリエルという女も出せッ!』

男の野太い大声が聞こえた。

何だ……?

俺は2階で寝ているガブリエルをガルムに起こして貰うと、一緒に外に出た。

イリアディアの里の外がやたら騒がしい。

見張り台の番人のザッツさんが走ってきた。

「大変だアルセーヌ!ガブリエル!帝国軍が攻めてきたんだ!!!アンタらを出せと……」

すぐに出て行こうとした俺達をヘルナレアさんが引き留める。

「裏門には誰もおらぬ!走れ!」

逃がしてくれるのは有り難い。

でも、俺達には逃げた先なんてもう無いんだよ。

「ガブリエル、ごめん」

「あら。逃げないのですか」

ガブリエルは感心したように微笑んだ。

「最悪、フェンリル達にどうにかして貰う……けど、その前に交渉でどうにかなるなら」

「私は兄の職務を手伝って外交の経験もありますから、頼って下さい」

「ありがとう」


 俺達は正面門から外に出た。帝国軍の兵士が数十名ほど松明を手にしていた。武装を見る限り、騎兵だろうか。揃った上等な装備をしているし、荷駄部隊も含めてほぼ全員がペガサス飛翔騎兵だ。ロースタレイ帝国の誇る最強兵種である。


 「アルセーヌとガブリエルだな。来い!」

 その指揮官と思しき人間は、エルマーくらいの幼い少女だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る