第10話 才女と排泄物の実力
俺とガブリエルはまずイリアディアの里の中を調べて回った。
うーん……特産物になるようなものは……見当たらない……。
「あっ」
ガブリエルが突然変な声を上げた。俺はその視線の先を追いかけて仰天する。
魔族のトイレは外にあって、共用なのだ。
ガブリエルはそのままトイレの方へまっしぐらに走り出すから、俺は慌てた。
「――お、お花を摘むのですか!?」
下品なことを言っている自覚はある。だけどガブリエルの様子があまりにもおかしかったんだ。
「いいえ!糞尿ですわ!もしかすれば――!!!」
ガブリエルが共用トイレの『中』じゃなくて『下』に入り込もうとしたので、いよいよ俺は泡を食って止めた。
「ガブリエルの探しているものは何だ!?俺がやるから!」
「硝石の元ですわ」
――全てが納得できた。
イリアディアの里の周りに、ブロワン大魔森がある。デューバル温泉郷がある。よって、木炭と硫黄はほぼ無限に採取できる。
最後の硝石さえあれば、『火薬』が調合できるのだ。
アザレナ王国の王立カルタベラ学園で首席しか取ったことがなくて、最終的に飛び級で卒業したガブリエルしか思いつかない恐ろしい発想だと思う。
王立カルタベラ学園は貴族と王族しか通えない上に、貴族と王族は将来的に必ずスキルを獲得できるので、1年前に辺境で平民がたまたま発明した火薬なんてほとんど目もくれなかった。俺だって、最初は火薬を新しい病への特効薬だと勘違いしていた。戦で使う催涙弾や花火、煙幕や狼煙の材料としても使いようがあるとその後で聞いて、少し調べた程度だ。
だけど、
「私は卒業した後で元・父親の仕事を手伝い、領地の様々な事業にも携わっていました。その最中で、スキルを持たぬ平民が火薬を使って大きな岩を破壊していたのです。その時に硝石の人工的な生成方法も聞きました」
「内戦にも使えるってことか……」
怖い女だ。
でも、そこが良いと思う。
最高。
「さあ?」
平然としらばっくれるところがなかなか憎い。
「ま、俺だって今度こそ追い出されたらたまらないからな。……トイレの下の土を掘り起こすよ」
魔族が何だ何だと集まってくる前で、俺はシャベルを借りて共用トイレの土を掘り起こし、ガブリエルの前に積んだ。
ガブリエルがそれを『分別』するとただの土と硝石に別けられる。
後は木炭と硫黄と硝石を、ガブリエル曰く『独自ブレンド』して――。
俺達は火薬を手に入れた。
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