第4話 人身御供
俺達は巨大な木の根元にある魔獣の巣穴にやって来た。大量に積まれた人骨や獣の骨の中から、小さな狼の魔獣2匹がキャンキャンと吠えながら飛び出してきた。
「この魔獣は母親……だったのですね」
「……子を養うために、俺達の前の追放者も食べていたんでしょうね」
積まれた人骨や飛び散った残骸の中に、かつてアザレナ王国で流行ったデザインの革靴の切れっ端や汚れた衣類の欠片があった。
アザレナ王国は弱小な『スキル』を持つ者を魔境ゴドノワへ追放してきた。毎年必ずと言う訳じゃないが、延々と続けてきたのだ。
これも、俺達の前の犠牲者の遺品だろう。
突然、母親の魔獣が振り返って低く唸りだした。
驚いて俺達もその方向を見ると、枝葉が揺れたりしている。
誰かがやってくるらしい。
咄嗟に木の陰に二人で隠れて様子を見ていると――。
「じに゛だぐな゛い゛……じに゛だぐな゛い゛よ゛ぉ゛……!」
泣きじゃくりながら魔族の女の子(後で男の子だと分かった)が姿を見せた。
角と小さな羽が生えている。
「――ひいいいっ!!!!」
狼の魔獣の姿を見つけて、魔族の子は絶句する。
「あ……ああっ……」
魔族とは魔境ゴドノワに住む亜人種で、悪魔に生贄を捧げているという恐ろしい連中だと聞いていた。でも目の前の女の子(男の子)は――ただ目の前の魔獣に怯えている無力な子供に見えた。
俺はガブリエルと小声で会話する。
「ちょっと話してみますか?」
「もし襲われたら……お願いします」
「勿論」
俺達は女の子(男の子)の前に出てみた。
「えっ!?ニンゲン!?ど、どうして?!」
「俺がこの狼の魔獣をやっつけて従えたんだ」
女の子(男の子)はピョーンと飛び上がった。
「そ、それ本当!?本当なの!????」
「本当だ。伏せろ」と俺が命令すると魔獣は犬のように忠実に伏せた。
「うわ、わああああああああああああ!!本当だ!本当だあああ!!」
彼女(彼)は大声で叫んだかと思うと、そのまま泣き出した。
「じゃあ、じゃあ僕、もう人身御供で『フェンリル』に食べられなくても良いんだ……!!!」
「貴方はこの魔獣に食べられるためにここに来たの?」
ガブリエルが優しい声で訊ねる。
何度も何度も首を縦に振って、泣きながら説明してくれた。
「そうなんです。このブロワン大魔森を無事に魔族が歩くために、毎年……生け贄が選ばれるんです。今年は僕でした」
……酷いな、それ。
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