第3話 どすけべ系スキルの必殺コンボ

 ――翌朝。

魔境ゴドノワの入り口で、国の境目に位置するブロワン大魔森の前で、俺達は馬車から引きずり出されるように下ろされて、『今後、このブロワン大魔森を出てアザレナ王国に立ち入ったら裁判もなく処刑する』と強く警告されてから、その場に放置された。


 「……ケルテラルス侯爵令嬢」

とりあえず森の中に入って、俺達は倒木に腰掛けて、今後のことを話すことにした。

「もうケルテラルス侯爵とは縁もゆかりもありません。私はただのガブリエル・レルネです。どうぞガブリエルと呼んで下さいまし」

彼女は気丈にそう言った。

「じゃあ俺もただのアルセーヌ・ダヴーです、ガブリエル」

「ええ、アルセーヌ。……これから私達……どうしましょう」

「死にたくは無いですからね、まずは食べ物と水を探しましょうよ。……こんなことならナイフの一つでも懐に忍ばせておくんだった」

その時、辺りがごうごうとどよめくように震えた。

「っ!」

ガブリエルが悲鳴を出さないように息を呑む。

固唾を呑む俺達の視線の先の森の茂みから、ゆっくりと姿を現したのは――狼に似たあまりにも巨大な魔獣だった。

魔獣とは魔力を持つ獣で、縄張りに侵入した人間を襲い、時には食べることもある。成長すればするほど巨大な体になり、それに比例して保有できる魔力も増えるため、年を経た魔獣ほど強くなるそうだ。

ここまでの大型の魔獣は初めて目にした。この巨躯から推測するに、最低で数百年は生きているに違いない。


 その巨大な魔獣が、明らかに俺達を敵か、餌として認識している。

俺の体が勝手に震えて、冷や汗が流れた。

『GOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOROROOROROOOOOOOOOOOOOOOOOO――――N!!!』

吠えるなり魔獣はガブリエルめがけて飛びかかってきた。

俺は咄嗟にガブリエルを突き飛ばし――ほとんど何も考えずに『スキル』を使った。

『淫紋支配』

『洗脳』

俺は巨躯に吹っ飛ばされながら、最後にこれを発動させた。

『時間停止』


 ……俺は上手いこと地面に転がり、ぶつかった衝撃を殺す。

あちこち痛いが……幸い、骨折とかはしていなさそうだ。

起き上がって視線を前に向けると、俺に突き飛ばされて倒れかけながら俺へと手を伸ばしているガブリエルと、空中に浮かんだままの狼の魔獣があった。

「……よし、やるぞ」

先にガブリエルを倒木に座らせてから、俺は魔獣の『エロステータス開示』を試みた。

 『淫紋浸食度58%』、『洗脳度40%』と赤い文字でステータスの表示があったが、しばらくすると緑の文字で『淫紋浸食度75%』、『洗脳度60%』に変わった。先に『淫紋浸食度100%』に到達すると文字が青くなる。

どうやら青く表示された『淫紋支配』は完了したと言うことらしい。『洗脳度70%』だと文字は緑のままだったから。

『淫紋支配』より『洗脳』の方が浸食の度合いがゆっくりのようだ。

「何とか……なりそうだな」


 俺は『時間停止』を解除した。


 『GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!?』

狼の魔獣が止まった。その額には『淫紋』が刻み込まれている。森の木々が根こそぎ倒れそうな凄まじい咆哮を上げ、全身を雷で打たれたように震わせ――ドォオオオン!!!!と地響きを立てて横倒しになった。

「――えっ」

ガブリエルの戸惑う声。

「な、何が起きましたの!?」

「後で説明します」俺は混乱しているであろう魔獣に言った。「俺に逆らうな」

『GURURURUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU……!!!』

魔獣は必死に抵抗しようとしているけれど、抵抗すればするほど『淫紋』が輝いて『洗脳』が進んでいく。

『――GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!』

魔獣としての断末魔と同時に『洗脳度100%』に到達して青文字に変わった。


 「俺達を乗せて、雨風がしのげる場所へ行け」

俺の命令に大人しくしたがってその場に魔獣は伏せ、俺達がいつでも騎乗できる体勢を取った。

「アルセーヌの『スキル』ですか!」

ガブリエルが目を丸くした。

俺は頷いて、

「ええ。コイツに乗って行きましょう」

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