第5話 西も東も北も南も
色々と話した。
名前はエルマー・カツルトス。れっきとした男で妹が人身御供に選ばれることになったからって自分から名乗りを上げたらしい。
この魔獣は『フェンリル』……魔境ゴドノワ最大最悪の魔獣である『4凶獣』の中の一匹で、魔王でさえも歯が立たなかったそうだ。
魔族や魔王はここから西に行った先にある、イリアディアの里に住んでいる。
悪魔に生贄を『率先して』捧げているんじゃなくて、『捧げないと族滅の危機』だったから泣く泣く……と言うのが話の真相らしい。
「どうかイリアディアの里に来てくれませんか。『フェンリル』を従えたアルセーヌさんなら、魔族を救ってくれるかも知れないんです!」
「どのように……危機的な状況なのですか?」
ガブリエルが訊ねると素直にエルマーは話してくれた。
「実は『4凶獣』の『ガルム』と『フレスベルク』と『ニーズホッグ』がイリアディアの里の四方を囲むように棲み着いていまして」
「へー、もしかして魔族の拠点の東西南北を全部をこのくらい(フェンリルを指して)巨大な魔獣に押さえられていたのか?」
どう考えても地獄じゃねえか。
「そうなんです。でもアルセーヌさんなら全て『フェンリル』みたいに大人しくさせてくれますよね!?」
待て、と言いたいところだったが俺はある事を約束させる代わりに、何とかすることにした。
「やっても良いけど、俺達はアザレナ王国から追放されて行き場が無いんだ。イリアディアの里でそれなりの待遇で歓迎してくれるなら……」
「大歓迎ですよ!僕が母さ……じゃなかった魔王陛下を絶対に説得しますから。でも……」
「何にせよ退治するには相手の情報が必要だから。何の情報一つもなく突っ込んでおきながら返り討ちにされない、なんてエルマーも思っていないだろう?」
「……うん。うん、うん。よし!アルセーヌさんは僕を助けてくれたも同然です。
イリアディアの里はこっちです――あっ!」
俺はエルマーを抱き上げてフェンリルの背中に乗せた。
ガブリエルもその後ろに乗る。子狼2匹は俺が抱えて乗った。
「コイツに乗った方が早いし確実だからさ」
「――はい!」
フェンリルはあっという間にブロワン大魔森を抜けて、軽やかに山道を駆けて、やがて小さな要塞村の前に着いた。
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