音ゲーでリズムに乗りたい!

 最近、バンドウの様子がおかしい。


 どうも何かを隠しているような気がする。ワカナは気になって仕方なかったが、面と向かって訊くのもはばかられる。もやもやを吹き飛ばすように駅のベンチから立ち上がった。


「うん。こういう時は遊ぶに限るね」


 気分転換に新しくできたゲームセンターに行くことにした。あくまでも気分転換に。足を伸ばして遠くの駅へ。改札から出るとすぐそこに箱型の建物がある。

 

 ワカナはヘッドホンを首に掛けた。


 店内には同じようにヘッドホンをした女子高生たちがいて、皆楽しそうにリズムに乗っている。ここは音ゲーに特化したゲームセンターだ。


 店内をぐるっと見回すと、目が一点に留まった。


「え、バンドウ」


 彼女はすごい手捌きでボタンを押していた。耳を澄ますとふんふん歌っている。かかとがぴょこぴょこ浮いている。


 見てはいけないものを見てしまった。


 そう思っていても可愛くて目が離せない。ここは心を鬼にして帰ろうと決めた。まだ一回も遊んでいないことを悔みつつ、鞄にヘッドホンをしまっていると、バンドウが振り返った。


「あ」

「え」


 二人は心の中で呟いた。ここで会ったが『百年目』と。


 ――百年目とは。普段は真面目、隠しているけど実は遊び好き。そんな主人公が遊んでいたら、ばったり上司と出会ってしまう。理想の上下関係を描いた落語。


 彼女は表情を変えずに眼鏡を外した。


「私はバンドウではありません」


 本人確認でよく見る「私はロボットではありません」のテンションで言う。こうなったら帰るに帰れないので、ワカナは話を合わせた。


「そうね。確かにバンドウはここにいないね」

「そうです。私は……クマゴロウです」


 彼女は自分の鞄にぶら下っている、小さなクマのぬいぐるみを見て言った。


「じゃあクマちゃん。せっかくだから一緒に遊ばない?」

「はい」


 ぽっと頬が赤らんだ。


 二人で一緒に遊べる筐体を探す。バンドウは裸眼だとほぼ目が見えないので手を握ってあげる。恋愛は苦手でもこういうことはできた。昔からしていることだから今さら恥ずかしさなんてない。


 二人で太鼓の達人を叩く。


 見えていないはずなのに上手い。協力プレイは息ぴったりだった。「私たち相性がいいですね」と言われて「そりゃそうよ」とワカナは喉まで出かかった。


「恋人がよく遊ぶ人なんです」


 結果発表の時にいきなり言ったから、ワカナはむせた。 


「そ、そうなんだ」

「だから私も遊びを覚えたいんです。彼女の隣にいたいから」


 ワカナは嬉しくて恥ずかしくて、照れ隠しに話を逸らした。


「そうそう、遊ぶのは大事だからね。人生には遊びがないと!」

「あなたは遊びすぎです」

「うっ」


 釘を刺された。そろそろ日も暮れてきたので次のワンコインで終わりにする。二人は最後に対戦をすることにした。ミスなく叩いてスコアの高い方が勝ちだ。バンドウは眼鏡をかけ直す。


 彼女が選んだ曲は女の子二人のデュエットソングだった。


「絶対に負けませんから」

「ゲーマの底力見せてやるわ」

 

 実力は拮抗。一つもミスがない。するとバンドウは急に歌い出した。「スキになったんだ、仕方ないじゃん」とか「心の奥のドキドキは察してよ」とか歌詞で精神攻撃をしてきた。


「それずるいって~!」

「これがあなたの攻略法です」


 手元が狂ってあえなく撃沈。バンドウは笑って眼鏡を上げた。


「百年早いですよ。私に勝とうなんてね」

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