ダンジョンで冒険したい!
珍しくバンドウが遅れるというので、生徒会室はワカナ一人だけだった。先に仕事を始める、なんてことは遊び好きの彼女の選択肢にはない。ワカナは携帯ゲーム機を鞄から取り出した。
彼岸花の咲くタイトル画面には『
これは
まずは恋人のキャラを作る。『
――心中恋電脳とは。理想の女性をゲームでキャラメイクして、その相手と恋に落ちるという落語。
ポートレートの中から好みのイラスト選ぶ。
職業、髪の色などを細かく設定してボイスを選択。オプションでメガネをかけて完了。「よろしく頼む」とクールなボイスが再生された。
「いや、これバンドウじゃん」
周りを見る。誰もいない。バンドウと命名した。
「次はあたしか。とりあえず盾職にしとこう。あの子を守らないと」
ワカナは自分で言って恥ずかしくなってきた。
この手のゲームは妄想をするのが楽しいので、恥ずかしがってはいられない。幼馴染という設定でゲームを始める。物語が始まると二人は鳥居をくぐった。
時は大正時代。現世で結ばれることを許されなかった彼女らは、あの世にあるという楽園を目指して迷宮を進む。
ダンジョンには百合が咲き乱れていて美しい。
二人で花の香りを嗅いでみる。うっとりとする彼女の横顔を見ると胸の鼓動が早まる。儚げに俯く白い花びらと彼女が重なる。守りたい気持ちが力になって、防御力が上がった。
「そういうシステムね」
道中では数々の危険が迫る。可愛らしくも怖ろしい妖怪たちから身を守り、壊れそうな手を握って道を往く。
一つの食べものを二人で分け合う。回復量が上がる。
野営をすると二人で寄り添う。焚火に照らされる寝顔を愛おしく思うとまたステータスが上がる。ワカナ自身も強くなった気がしてきた。
守ってあげると「助かったわ」とボイスが入る。回復をしてもらって「ありがとう」とお礼を返す。愛が深まるほど攻撃回数が増えてどんどん強くなる。
道を歩いていると突然、【抱き合う】コマンドが出た。
「こ、これは」
なぜかゲームなのにドキドキしてきた。ワカナは覚悟を決めてボタンを押す。二人のイラストはその場で抱き合うと、ぽわっと柔らかい効果音がしてHPとMPが全快した。
心が暖かくなった。とテキストが表示された。
現実の方も暖かい。むしろ熱いぐらい。手汗でゲーム機の裏側がちょっと湿っていた。
それからはもう戦闘中に手を握りだしたり、掛け合いもどんどん変わって行って、常にラブラブで尊いの波状攻撃を浴びる。
気付くとゲームも序盤の山場。
いわゆるボス戦だ。たとえゲームでも彼女を死なせたくない。だが、どうあがいても次の攻撃で全滅する。苦悶の表情を浮かべるバンドウが言った。
「死ぬならあなたと一緒がいいわ」
「あたしだって!」
思わずゲームに語りかける。
「ありがとう。告白と捉えさせてもらうわ」
「捉えさせて……?」
振り向いたらそこに顔があった。
「うわっ!? いるなら言ってよ!」
「楽しそうだったので」
「……いつからいたの」
バンドウは唇に人差し指を添えた。
「内緒。それよりも仕事を」
「いつからいたのよー!」
バンドウは頬を赤らめてわーわーわめくワカナの首根っこを掴む。その痛みも今のワカナには嬉しかった。彼女は生きているんだと実感して、ゲームの電源を消した。
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