キクカワ×マルヤマ
オカルトガールズ
オカルト研究部は怖くない。
一見矛盾するようだが確かに怖くないのだ。六畳一間のしんとした部室に濃い影が二つ伸びる。夏の陽射しは長い黒髪に反射する。
「じゃあ私から始めるね。百物語」
色白の少女は両手をテーブルの上に重ねた。
「それは朝起きたらお腹の上にいたの。ほのかに熱を持ったそれは蠢いて、それはもう怖ろしい声で鳴くの。それで私は動かれへんようになってまうのよ。ほんまに怖いの。猫ちゃんは」
お分かりいただけただろうか。
この百物語はつまり『まんじゅう怖い』なのである。好きなものをあえて怖いと言う落語である。ここオカルト研究部は、怪異を『かわいく、たのしく』研究する部活動なのである。
「あー確かにそれは怖いかも♡」
日に焼けた少女はにやにやと笑みを浮かべた。彼女は自分のお団子頭をいじりながら、しばらく宙を見つめてまた前を向いた。
「次はわたしの番っすね。一気に百まで行っちゃうかも」
「そんなにあんの?」
「ありますよ。キクカワ先輩のこわーい話ならね」
「え!?」
マルヤマはニヤリと笑って肘をついた。
「まず、お顔がつよつよで怖いっすよねー。色白ですらりとしてるのも怖いし、上品でお淑やかなのも怖すぎるし。それにそれに――」
先輩の白い肌がみるみる桃色に染まっていく。ぴったり閉じた太ももに手のひらを挟みながら、上目遣いで後輩をじっと見た。
「そんなにこわい?」
「そりゃもう。めっちゃ可愛いっす♡」
キクカワの端正な顔がふにゃっと緩んだ。すっかり溶けてしまいそうになった先輩は、はたと気付いて声をあげる。
「どうしよ。ロウソク忘れてたわ」
百物語は一話ごとにロウソクを消すという決まりごとがある。しかし、そんなことをすれば学校はたちまち燃えてしまうだろう。
そこでマルヤマは一つ手を打った。
「よし。ちゅーしましょう!」
「どうして!?」
「知らないんですか先輩。実はこんな話があるんですよ」
二人きりで百物語を行う場合、ロウソクではなく一話ごとにキスをするとその二人は永遠に結ばれる。そんな秘密のルールがあるとマルヤマは胸を張って言った。
というのはもちろん嘘だけど、先輩はチョロすぎて信じた。
「というわけで、ちゅーしましょ?」
「でもキスなんて……」
「オカルト研究部として噂の実証をしないと。それとも、わたしと結ばれるのはイヤですか?」
マルヤマは顔を近づける。先輩は頬を赤らめて俯いた。
「イヤ、ではないかも」
「やった!」
と、勢いよく席を立って先輩の隣にかがむ。キクカワは背筋をぴんと伸ばして座ったまま、後輩の方へ顔を向けた。
唇を尖らせる。マルヤマは吹きだした。
「もう先輩、それじゃできませんよー」
「だ、だってちゅーでしょ?」
「ん? ほっぺですよ?」
「ふえ?」
透明なグラスにハイビスカスティーを注ぐように、みるみる顔が赤くなる。キクカワは咄嗟に顔を両手で覆った。真っ赤な耳だけは隠しきれていない。
「そうそう。結ばれるのは『友情』ですからね?」
「えっ!?」
「あれ、先輩もしかして♡」
うわっと机に突っ伏してキクカワはぽつり。
「ああ、後輩こわい……」
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