エンマ×ショウコ

書けない女とエッチな女

 高座こうざ女学院において『官能小説部』は部室棟の地下に存在する。そこは古い本がたくさんあって、どこか秘密基地めいた四畳半だった。


 ほの暗い蛍光灯に照らされて、一人の少女がキーボードを叩いている。長く垂れた前髪から鋭い目がモニターを覗く。灰色の瞳は動きを止めると色を失くした。


「だめだ。書けない」


 彼女は絶賛スランプ中である。表現の壁にぶち当たっている。エッチなアイデアが浮かばない。だから部員募集のチラシを作ってみた。『体を好きにさせてくれる子、大募集!』と。


 ノックの音が三回。返事をする前に扉が開いた。


「あの、チラシ見たんですけど」

「うそ、ほんとにきた――」

 

 色のない部室にインクが流れ込んできた。そう思うほど色彩が違う。長い睫毛にピンクのアイラインが眩しい、地雷系ツインテ白ギャルだ。この世で一番苦手なタイプの怪獣だ。しかも同じクラスの。


「ごめん帰って」

「は? 部屋は間違ってないでしょ?」

「部員の募集はもう終わったの」


「あっ……そっか。うん。ごめんね」


 ギャルの目にも涙。派手なピンクのインナーカラーで髪を痛めつけているくせに、心の方は繊細らしい。このまま泣いて帰らせたら、陽キャグループに殺されかねない。


「ちょっと待って。一つだけ手伝って」

「いいの?」


 メイクバチバチの顔が明るくなる。自分で蒔いた種だから仕方ない。それに苦手な陽キャを屈服させるチャンスでもある。こうなりゃ自棄だ。とことんやってやろう。そう腹に決めてエンマは立ち上がった。


「夜這いのシーンを書きたいの。だから」


 ギャルの腕を掴んで畳へごろんと寝かす。自分も横になる。お尻へと手を伸ばして、スカート越しにたっぷりと撫でまわしてやった。


「ふわっ♡」


 ゆっくりと円を描くように撫でる。その度にケツが小刻みに震える。スカートを捲って素肌に触れると、いよいよ征服感が最高潮になった。


「お尻だけで感じてんの?」

「もう♡もう♡」

「なにそれ牛?」

「だってだって、あーしは今『お玉牛たまうし』なのっ♡」


 ――お玉牛とは。とある村にお玉という娘がいた。あまりにも美人なので野郎共が群がってくる。娘の身を案じた父親は、寝室に身代わりの牛を寝かせた。ヤバイ夜這いの落語。


「あーしは牛なのっ、だから乳絞りしてっ♡」

「え」


 脳が言葉を処理しきれなくて手が止まった。ギャルの顔から血の気がさあっと引いて青ざめる。目を伏せると乾いたように笑った。


「あはは、今のはさすがにキモすぎるよね……」

「夜這いからお玉牛で乳絞りって。それ天才じゃんっ!」


 エンマは目を輝かせて手をひしと握りしめた。ギャルの顔がみるみる赤らむ。涙もじんわり浮かべている。だけどエンマには泣いてる事情なんてどうでもよかった。


 目の前に救いの女神がいるのだから。揉まねば。


 パツパツに張った制服に指を沈みこませる。胸の根元をしっかり掴むと、先端へ向けて絞り上げるように揉みあげた。


「ああやばい溢れ出そう!」

「だめ♡あーし母乳出ちゃうかもお♡」


「いいから母乳もアイデアも出しちゃえっ!」

「ムリ♡頭バカになってるもん♡」


「うそつけ天才のくせに、この天才ホルスタイン!」

「もう♡もう♡もう♡」


 とその時、エンマの脳裏でシナプスが弾けた。ぐったりした女体をほっぽらかしてパソコンを開く。瞬きもせずに指を走らす。


 一心不乱にキーボードを叩くエンマを見て、ギャルは「天才じゃん」と呟いた。気付いたら後ろから抱きついていた。


「好きになっちゃった♡」

「はい?」

「あーしはエマちんを好きになりました♡」

「エマちん!?」


 どうしてエッチなことをしただけなのに好きになるんだろう。しかも相手がギャルだなんて。溢れるアイデアと理解できない感情が混線して思考が止まる。


 訳もわからずぎゅーっとされて、天を仰いでエンマは鳴いた。


「なんなのよ、もうっー!」

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