お姫様は放課後に死ぬ
「あかんわ、もう死んだわ」
がらんとした放課後の教室で、ハナは机に伏せたまま溜息を漏らした。どうやら持久走で体力を使い果たしたらしい。そんな彼女を横目に見ながら、サンダは鞄を肩にかけて立ち上がった。
「日頃から運動せえへんからこうなる」
「そやけど疲れたんやもん。もう死んで動かれへんわ」
しょうがない。マッサージでもしてやろうかと鞄を置いた時、一つ面白い算段を思いついた。丸まって座ったままの彼女の背後に立つと、サンダはニヤリと口角を上げて笑う。
「死んだんなら、何されても文句は言われへんよな? 『らくだ』みたいに」
――らくだとは。ある日、らくだと呼ばれた男が死んでいた。嫌われ者だった彼の葬式をあげるため、死人を踊らせるバイオレンスな落語。
サンダはいきなり彼女の両肩を掴むと背後から覆いかぶさる。耳元に顔を近づけると息を吹きかけ、突然キスの雨を降らせた。
「あっ♡サンちゃんなにを♡」
「なにって、いたずら」
「あ、あかんって♡もし誰か来たら♡」
「来たら?」
肩から腰へ。なぞるように手を這わして行く。彼女の敏感な部分はすべて把握している。サンダは弱点を付くように、両手を柔らかい肌に沈み込ませて行った。
「そこ、そこやめて♡」
「喋ったらあかんよ。ハナは死んでるんやから」
死体は素直にうんと頷く。放課後で二人きりとはいえ、誰が入ってきてもおかしくない。そのスリルと気持ちよさに胸の奥が疼く。唇を噛みしめて必死に声を殺す。
「次はえっちなポーズさせちゃおっかな」
サンダはハナの両手をぐっと持ち上げたかと思うと、無理やり上体を反らした。羽交い絞めにして胸をピンと張らせる。痛いけれど気持ちいい。蕩けたような表情で口をだらしなく開けていた。
「こんないやらしい顔、クラスの誰かに見られたらどうすんの?」
「いやや♡誰にも見せたくない♡サンちゃんだけに見せたいの♡」
一瞬、手に込めた力が緩む。不覚にもきゅんとしてしまったらしい。急に恥ずかしくなって、照れを隠すようにサンダはもっと力を込めた。
「喋るなって言うとるやろっ」
「んっ♡」
と、その時。廊下から足音が聴こえて手を止めた。おろおろと慌てふためくハナを見て、よからぬ算段を思いつく。
「オレは隠れるから。声出すなよ」
そう言ってサンダは机の下に潜り込む。足元でハナの股をぐっと広げたかと思うと、太ももに指を沈み込ませてきた。
「っっ♡♡」
溢れそうな嬌声を小さな手で必死に押さえる。ぎゅっと目を瞑ってなんとか堪える。太ももからふくらはぎへ。上履きを脱がされたと同時に、廊下の足音が止まった。
教室の扉ががらりと開きかけたその時、サンダは彼女の足裏のツボをぐいっと押した。声が出た。
「にゃん♡」
開きかけた扉が閉まる。どうやら学校で飼われている猫の声だと思ったのだろう。足音は遠のいて行った。緊張の糸が解けたハナは、ぷはっと息を吐いて天を仰ぐ。
「はあもう。サンちゃんのばか」
「はいはい。ほら帰るよ」
腕を引っ張られて、体が軽くなったことに今さら気付いて驚いた。
「もしかして、マッサージしてくれたん?」
「疲れてるのに放って帰られへんやろ。いたずらもしたかったし」
意地悪そうな笑みに思わずドキッとして、ハナは頬を染めた。
「じゃあ私もマッサージしてあげるね」
「ええよ。もう疲れはとれたから」
「何もしてないのに?」
「したよ。オレはおまえの笑顔を見たら疲れとれんの」
たぶん「ばきゅん」という銃声が聴こえたと思う。ハナは机に突っ伏して悶え苦しんだ。
「ずるいわ。また殺された」
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