言えないひみつの夢

 昼食後の授業は眠い。柔らかい陽射しはさらに眠気を誘うし、女性教師のゆったりとした朗読はもっと眠気を誘う。


 ここにいる一人の少女も舟を漕いでいる。

 

 一瞬がくんと体が揺れて、せいこちゃんは慌てて目を覚ました。隣の席のきいちゃんが耳打ちをする。


「ねえ、どんな夢見てたん?」

「それは……」


 言い淀んで目を伏せる。みるみる顔が赤くなる。


(言われへんよ。言えるわけないやん。二人でえっちした夢なんて。そんなん恥ずかしすぎるし、ていうか今授業中やし)


 黙ったままの彼女に、きいちゃんはムッとほっぺを膨らます。やがて何か思いついたのか、にやっと笑ってまた耳打ちをした。


「嘘つくんや。『天狗裁てんぐさばき』みたいなお仕置きが必要やね」


 ――天狗裁きとは。うなされて目を覚ました夫。妻は夢の内容を聞くけど見てないの一点張り。本当に見ていないのだが妻は疑い始めて。夢か現実か分からない落語。


 お仕置きという言葉にドキッとして背筋が伸びる。授業中に一体何をされるのだろう。いつも以上に積極的な彼女にドキドキしながら心拍数を上げていると、鼠径部あたりに人肌を感じた。


「んっ♡」


 白くて健康的な太ももをつーと指でなぞられる。甘い声が漏れそうになって思わず口を覆う。耳に熱い吐息がかかる。


「ほら教えて?」 


 黄色くネイルした指で何度もくすぐられる。今度は撫でるようにゆっくりと手を這わす。太ももに指が沈みこんで形を変え、透明な白い肌が火照って行く。


 どうやら本当に言うまで止めないらしい。みんなにバレたらどうしよう。そう思うと興奮が止まらない。太ももを擦り合わせる度にきゅんきゅんと疼いて切なくなる。


「しぶといなあ。じゃあ天狗になっちゃお♡」

「て、天狗って――」


 目を疑った。ぶわっと風が起こって濡羽色の翼が生えたのだから。


「せ、背中のそれ」

「天狗になってん。せいこちゃんの弱点、知ってるもんね」


 そう言ってきいちゃんは彼女の首筋にキスをする。柔らかい唇はちゅっちゅっと可愛らしい音を奏でる。その度にせいこちゃんは唇を噛みしめて声を殺す。それにもかまわずキスの雨を降らせる。弱点を突きまくる。


 これはきっと夢なんだ。だったらもっとして欲しい。


 思いが通じたのか今度は制服の中に手を入れられる。おへそ辺りをこちょばされつつ、首にキス跡を付けられる。だらしなく口を開けて「あ♡」と甘い声を漏らしてしまう。


「ほんまはえっちな夢を見たんと違うん?」

「ちがう♡ちがうの♡」

「まだ答えへんのや。なら奥の手を出すしかないね。いでよ! ハイパーこちょこちょ天狗マシーン二号!」


 二つの机が合体したかと思うと、たくさんの腕を生やした機械に変形した。もうだめだ。気持ちよくされてしまう。乱れた制服にたくさんの手が迫ってきて――


 ガタンッ。


 ココア色の髪が跳ねて揺れる。机に頭をぶつけたらしい。目の覚めたきいちゃんは急に恥ずかしくなって手で顔を覆った。


(すっごいえっちな夢見てもうた。きっとあれはウチの願望なんや。彼女にあんなことしたいっていう……うわわ、そんなんめっちゃ変態やんっ! こんな夢見たって絶対言われへんっ)


 赤くなった耳にふうと息がかかって飛び上がりそうになる。耳元でせいこちゃんは熱っぽく囁いた。


「放課後の部室ならええよ。お仕置き♡」

「!!」


 きいちゃんはその日一日、珍しく授業中に寝なかった。もちろん内容はなんにも頭に入らなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る