カロリーゼロのお菓子が食べたい!
ここは落語研究部。そしていつもの二人。きいちゃんは太眉をハの字にしてお腹を両手でぽんと叩いた。
「ちょっと太ったかも」
「そうかな。私はぽっちゃりも好きよ」
「でもでも、女子の一キロアップはヤバいから」
両手で押さえたクリーム色のセーターから、きゅるるとお腹の鳴る音が聞こえてくる。涙目な彼女を見てせいこちゃんは手を打った。
「カロリーゼロでお菓子を食べれる方法があるかも」
「どうやって?」
「食べたつもりになればええんよ。ほら『
「せいこちゃん。それ天才」
――書割盗人とは。お金がなくて部屋に何もない、なら家具を全て描いてしまおうというネタ。モノがあるつもりで暮らすって話。
二人は画材を畳の上にどさっと並べる。絵具のチューブを生クリームのようにいっぱい絞ってパレットに盛る。きいちゃんは筆でいちごのショートケーキを描いた。凄くちっちゃいヤツを。
「ホールで描いてもええんよ?」
「ダイエットしてる癖が出ちゃって」
「しかもそれ、糖質オフのヤツとちゃうん?」
「絵だけでよう分かるね」
せいこちゃんはスポンジを指さして自信満々な顔をする。
「生地のしっとり感がちゃうもん」
「けど低糖質も美味しいよ?」
「うん。でもケーキは甘ければ甘いほどいいの。デザートを食べるっていうのはね、背徳感ごと食べるもんなんよ」
せいこちゃんの力説におされて、きいちゃんは筆にたっぷりと白い絵具を付けた。カラフルなケーキで部屋を埋め尽くして行く。洋菓子ばかりでは胃もたれするので、あっさりした和菓子も描く。
するとどこからともなく白黒の猫がやってきて、たい焼きを前足でちょいちょいと撫でた。
「これにゃんだ?」
「ごめんね。それは絵なんよ」
なんとも丸くて人に愛されるフォルムをしたこの猫は、学校で飼われているぶち猫のおなべ。彼女にあらましを伝えると喜んで鳴いた。
「それならボクも、たい焼きが食べれるにゃ」
それからは二人と一匹で空想デザートタイム。
「ほっぺにクリームつけたつもり」
「じゃあそれを指ですくったつもり」
「食べさせてあげたつもり」
「頬張ったつもり」
なんて妄想を繰り広げる。部室をピンク色にして行く。今度はでっかい三段のウェディングケーキを描いた。きいちゃんは苺をてんこ盛りにしながら言う。
「ねえ、結婚式を挙げたつもりにならへん?」
「なるなる!」
二人はドレスを着たつもりで歩く。真っ白なケーキが二つ。ドレープを作るようにスカートを翻す。おなべがベールキャットをやってくれる。指輪交換したつもりで手を取り合う。真っ直ぐ見つめ合う。
「友達いっぱい呼んで、ご祝儀どっさりもらおうね」
「もしかして儲ける気?」
「もちろん」
「だとしても料理代は結構かかるかも。ドレスはお互いに縫うとして、会場費はどうやって浮かそう?」
きいちゃんは部屋をぐるりと見回して手を叩いた。
「あるやん、タダにする方法。書割盗人」
「きいちゃん。それ天才」
二人は妄想をパンケーキみたいに膨らましてゆく。
「会場は全部描けばええんよ。浮いたぶんは料理代に回そ!」
「まずは来てくれる人らを楽しませんとね」
「だったら落語家さんを呼ぼうよ。恋愛ネタやってもらお!」
「それいい! 泣くのは一切なし、ぜーんぶ笑いで包むの!」
同じタイミングでお腹が鳴って二人で笑う。
「お腹いっぱいになったつもり……はムリかあ」
「太らないようなの私が作ったげるから。おなべも何か食べる?」
眠そうに目を細めてあくびを一つした。
「もうお腹いっぱいにゃ」
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