ふたりの落語びより
らっこ
きいろ×せいこ
まんじゅう怖いみたいに
「まんじゅう怖いみたいにさ」
「うん」
「何かを怖くなりたいの」
茶髪の少女は跳ねっ毛を揺らして言う。おさげ髪の少女は頷く。四畳半で二人は向かい合っている。ここは落語研究部。落語好きの彼女たちは今日も今日とて落語を語る。やってみる。
「落語やと、まんじゅうを怖がったらまんじゅうが手に入るやん?」
「そうやね」
「だからさ、お金怖いって言えば降ってくると思うんよ」
「きいちゃん。それ天才」
それほどでもあると胸を張っているのがきいちゃん。いつも突飛なアイデアを考えつく普通の子。つまりはボケ担当。そして彼女をツッコむのがしっかり者のせいこちゃん。
「でも誰に怖いって言うの?」
「そこまでは考えてませんっ」
「もしお金を投げてもらうなら、パパ活か配信者かな」
「それはイヤや。何か他にないかな。タダで大金を手に入れる方法」
二人はうーんと考えて一緒に口を開いた。
「あ、神様!」
二人は心の中で『神様こわい』と唱えた。八百万の神様聴いてますか。ここに神様が怖い女子高生が二人もいますよ。神様になんて会いたくもない二人がここにいますよ。すると目の前に煙がぼわん。小さくて可愛らしい神様が現れた。
「わしが願いを一つだけ叶えてやろう」
きいちゃんはニコニコしながら手を上げる。
「一億円ちょうだい!」
「イヤじゃ」
「一億円くださいまし」
「言い方の問題じゃないわい。そもそも女子高生がそんな大金を持ったら危ないじゃろう。命を狙われるかもしれんぞ?」
「それは怖いかも」
神様に諭されそうになる。せいこちゃんが手をパーにして言った。
「じゃあ五千円でいいです」
「それならまあ……五千万円じゃないよな?」
「いいえ。五千円をください。毎日」
神様は頷きかけて慌ててかぶりを振った。
「危うく騙されるとこじゃった。お主ら、やり口の汚さがパパ活女子と変わらんぞ! そもそも自分で稼いだ清いお金にこそ意味があるのじゃ。もっと女子高生らしいお願いにせい!」
だったら二人の愛をもっと深めて欲しい。見つめ合ってお互いにそう考えたけれど、それは自分たちで叶えるものだから声に出さなかった。
「私の願いは叶えなくていい、だからきいちゃんの願いだけでも」
「それならウチだって。せいこちゃんの願いを叶えてよ」
神様は腕組みしてちらっと二人を見た。
「どうしてそんな金が欲しいのじゃ?」
「それはその……」
きいちゃんは頬を染めて髪をいじる。
「お金があったら、彼女に色々してあげれるもん」
「もう、そんなことええのに。いてくれるだけでええのに」
抱き合っていちゃつく二人を横目で見ながら、神様は申しわけなさそうに断りを入れる。
「すまんがどれも叶えてやれん。わしは福の神でも恋愛の神でもないのじゃ。そもそもわしは低級の神、大きな願いは叶えられん」
なら最初から言ってよと言う気力もなく、二人は背中合わせでへたり込む。神頼みをした自分たちがいけなかったと反省する。ほへっと溜息をついて俯いた。
「はあ、もう喋りすぎて疲れたわ」
「私も。なんかお腹空いたね」
ふと顔を上げると神様はもういなかった。代わりにハート型のまんじゅうが一つだけあった。
「はんぶんこしよっか」
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