番外 古き神様・新しきカミサマ 上

気が付いたら1万文字越えてたので上下編ですぅ。

時系列は極東ツアーのちょっと後。

――――――――――



 わいわいと、地図の話なんてしていた所にやってきた龍の姫とシーリーン。


「前提の話が良く判んないけど、調査がなしになったとかいうところで質問です。月が落ちた頃に駄神大量虐殺があったわけですが、司るものが居なくなったジャンルって消滅したんですか?」

 シーリーンのほうが口を開いたと思ったらそんな事を言い出す。


「虐殺ってほどでもないでしょう、半数はひと呑みにされたそうですし、そもそも世界の向こう側で起こった事ですからこの世界的にはノーカンなんですよ、あれ」

 世界の外の話ですから、当然僕は伝聞でしか結果を知りませんが、と命令した本人、セルファムフィーズがしれっとした顔で酷いことを言っている。どうやらいまだに彼らへの恨みが相当残っている模様。


「……問題はそこじゃなくないかなあ?いや、俺もどういう権能の神が死んだかまでは知らないけど。観ても判んないくらいだし、どうせ碌に仕事してなかったんでしょ、案外何も変わってないんじゃないの?」

 以前、夢という形でその辺りの情報をセルファムフィーズと共有しているケスレルも口調が彼にしては辛辣だ。


「あー。」

 嫌そうな顔でシャキヤールが応じる。出来事としては創世神としての自分の失態にあたることもあり、あまり思い出したくない話題であるから、致し方ないといえば致し方ない。


「ぶっちゃけ少年の言う通りよ。リソースそのものじゃない、だいたいの場合物質や物理事象の管理とか、この主星の属する星系の他の惑星の管理とか、気候とか、だったんだけど、奴らに託したのはあくまでも管理だから、奴らがいなくなった=即消滅ではないのよ。それやるとマズいのは月と太陽くらいでね……いや、水星無くなったのは管理者不在のせいだったわね……?」

 説明を終わらせかけて、嫌な事を思い出したわ、と、セルファムフィーズを横目で睨む創世神。


「太陽?太陽にもカミサマっているの?」

 初めて聞いた!と、びっくり顔のケスレル。遠いから別に要らないとかだと思ってた、などと付け加えている。


「います、というか彼は創世直後から、ずっと太陽の核に引きこもりっぱなしなので、今もちゃんといるはずですよ」

 世界、というか主星が神様カウントしてないのは、多分シンプルに遠すぎるからでしょうねえ、とセルファムフィーズが答えている。


「……干からびてないでしょうねあいつ……」

 主神様が不審顔になる。それこそ、創世直後から一度も会っていないので、流石にちょっと心配になりだしたらしい。


「仮にも古神ですし、そもそも彼が干からびてるようなら、太陽の恩恵が必要な我々本星側も無事じゃ済みませんよ」

 セルファムフィーズが呆れたようにそう返したところで、突然、何の予兆もなく、赤毛の男の姿が彼らの前に現れた。

 一見してあれ、と思う一同。現れた男の見た目は、どうみても彼らの友人、ハルムレクなのだが、気配が、明らかに人たる彼のそれとは別物だったからだ。


「おう、生きてるぜ。お前らちょっと目離してる隙にマジで何やってくれちゃってんの」

 渋い顔で、そのような事を述べる男の声は、ハルムレクのそれより、いささか低い。


「えっハルム?じゃないな、似てるけど違うな?」

 ケスレルが僅かに目を細めて、警戒する顔。


「ああ、適当なヒトガタの見た目が記憶にもうさっぱり残ってもいなかったんで、手っ取り早く、一番雰囲気的に近そうな奴の姿を借りた。悪ぃな、友達の姿じゃ紛らわしかったな」

 男はあっけらかんとそう述べる。ケスレルの言う通り、見た目はともかく中身は別人で間違いないようだ。


「適当な見た目って、あんた本来の身体はどうしたのよ」

 正体に既に気付いている創世神が、さっきまでとはまた違った意味で渋い顔。


「家で寝てるぜ?いくらなんでも俺が本体で来るわけないだろ、サイズと距離考えろよ。俺の本体そもそもヒトタイプじゃねえんだしさ」

 男はそう答えると、その場で腕組みして仁王立ち。

 なんでも彼の本体は、翼を持つ四足の炎の蛇、が一番イメージとして近いそうだ。

 手足と翼のある蛇ってそれ龍って言いません?とシーリーンが呈した疑問への回答は、だって俺角も髭もねえし、であった。本神の自認が蛇なのだから、蛇でいいのだ、そうだ。


「とはいえ、昔の仮のヒトガタとも、案外似ているんですね。創世時にちょっと顔を合わせただけではありますけど」

 当時を知っているもう一人、セルファムフィーズがそのような感想を述べる。


「だなあ。俺も似てると感じたから使ってみたんだが。まあ紛らわしいから、色はちょっと俺に合わせて変えようか」

 その言葉と同時に、男の髪と瞳が、赤と琥珀の色合いから、鮮やかな朱金に変ずる。それだけでも、案外と印象が変わる。というか、眩しい。


「というわけで、彼が太陽神、シュラクトネルーゲですね」

 その変化を気にも留めずに説明する、マイペースなセルファムフィーズ。


「おお!?太陽の人だったのか。あ、新しい月の管理主任やってるケスレルです。よろしくおねがいしまーす」

 警戒心が一瞬で吹き飛び、人懐っこい笑顔で挨拶するケスレルだが、隣の妹に即、


「管理主任て、言い方ァ!おにーちゃん工場勤務のリーマンじゃないんだから」

 と、小声で突っ込まれている。とはいっても、実際やってることと言ったら、ケスレルの言い方自体で正しいので、他の面子は苦笑するのみだ。

 三食おやつ付きで仕事は基本定時作業、しかも仕事中の大半は身体は休息状態。まあ正直、リーマンというには余りにも生活が優雅に過ぎるのだが。


「おう、なかなか礼儀のできてる坊主だな!新しい月はあんたがメインか、よろしくな!

 ……ところで主神よ、なんで金星手に掛けたよ。あんな状態で放っておくと水星みたいに俺に突っ込むぞ?」

 特にその挨拶の後のツッコミを気にもせず、人懐っこそうに、にぱっとケスレルに向かって笑った男は、やおらシャキヤールに向きなおると、今度は仏頂面で文句を言い出した。


「いやあ、手に掛けたというか、あれもうほぼ完全にダメになっててさあ。シェルハスに一部引き継がせてるけど、足りない?」

 何時も羽織っている白衣のポケットに手を突っ込んだまま、開き直ったように述べるシャキヤール。


「あいつは冥界リソース管理が本業だから軌道計算とか専門外だろうが。どこかにちょうどいい管理者いねえのかよ」

 シュラクトネルーゲは渋面で反論する。実際、直接主神に確認しに来なくてはならない程度に、金星には問題が発生しつつあるらしい、と、気を引き締めるシャキヤール以外の一同。


「そんなにぽこぽこカミサマ作るほどリソースに余裕ないわよ!月が落ちた時のあれこれの分は回収できたから月の新造はなんとかできたけど、しーちゃんいなかったらそれもうまくいかないとこだったんだから」

 シャキヤールはといえば、そんな風にぼやき混じりに反論する。実際問題、月の新造直前まで、色々詰みかけていた訳だから、正直今更責められるのも割に合わないといえばそうだよね、と経緯を熟知している月の一同は納得顔。


「しーちゃん?あ、そこの創世神のタマゴ、いやヒヨコみたいなやつか……なんだよこの優良物件」

 兄と並んで立っているシーリーンにやっと気づいた、というようにシュラクトネルーゲが彼女に目をやり、その存在に首を傾げる。

 リソースねえと言いつつなんでこんな優良物件生えてんだよ、という呟き。


「いいでしょー。色々ワケアリなんだけど、うちの本来のリソースの不足分、大分補って貰えたのよ。でもしーちゃんは天体系は無理なのよねえ、属性が合わない」

 優良物件、のくだりを鷹揚に認めたシャキヤールだが、続いた言葉は、無理と言いつつ、残念そうにあまり聞こえない。


「まあ確かに金星なんぞに燻らせとくくらいなら、あんたの後継者として育てるほうがいい優良さだわな……」

 合わないという部分には同意らしく、シュラクトネルーゲも頷いている。


「もう他にはぜんぜん神様って残ってないんだ?」

 確か極東行ったときに調べるって言ってたよね、とケスレルが、一番その辺りに詳しいはずの金髪の相棒に訊ねている。


「ええ、極東から帰ってからチェックしたら、行方不明者がひとり判明したんですけど、ただ、月から見える、というか、現在の監視範囲には居ないんですよねえ……シュラク、ええと……メシュネトラーシュの居場所とか、消息を御存知ありませんか?」

 聞かれた方はといえば、一人の名を挙げたものの、居場所が判らない、と、自らの監視範囲の外に存在し続けていたはずの太陽神に質問を振る。


「メシュネトラーシュ?彗星の?あいつここ二千年くらいこっち来てねえぞ?」

 知っているには知っているが、そういやぁなんであいつ行方晦ましてるんだ?と、首をひねる太陽神。


「あー……シュネーとか、いたわね……ってなんであんなとこに」

 どうやら存在を忘れかけていたらしく、色んな意味で遠い目をした創世神だが、どうやら権能を使って居場所を発見したものの、思いがけない場所にいたようで、今度は首を傾げている。


「いるんですか?どこに?」

 そのシャキヤールの態度に怪訝な顔になりつつも、まずは居場所を確認するセルファムフィーズ。


「えっとねー、世界の、というか宇宙の一番端っこの境界に絡まって、じたばたしてる?」

 検知したものをそのまま伝えた創世神の答えに、は?と絶句する一同。

 仮にもカミサマ、いや古神だからガチの神様が、絡まる?じたばた?


「……二千年ずっと?」

 流石にいくらなんでもそんなはずは、と、困惑した様子のセルファムフィーズ。


「いやぁ、あの子ちょっととろくさいから、やりかねないわね。遠すぎて誰とも通信できそうにないし……ちょっと救出してくる」

 そう述べると、シャキヤールは紫がかった灰色の靄を纏って姿を消した。




「ぴぇん……ひどいめ、に、あった、のですぅ……」

 暫くして戻ってきたシャキヤールが小脇に抱えていたのは、水色がかった長い長い髪を伸ばした、藍色の瞳の美少女。

 但し、声は震えているし、姿も何やら酷くボロボロで、ぐったりしている。


「えーと、この人がメシュネトラーシュさん……?」

 おずおずとケスレルが訊ねる。


「そうよ、彗星を司る者、メシュネトラーシュ、なんだけど……境界にあんなヘンなものが張り付いてるとは思わなかったわね。防衛戦お疲れ、得意分野じゃないのに、一人でよく頑張ったわね」

 シャキヤールはケスレルの質問を肯定したあと、抱えていた少女を降ろすと、労いの言葉を述べつつ、彼女の頭を撫でた。


「ふぇぇ、主神様に褒められたーなでられたぁーうれすぃ……」

 へにゃっ、と泣き笑いの顔になる少女神。


「防衛戦?侵略者ですか」

 セルファムフィーズが言葉を聞きとがめて眉を寄せる。


「それがさあ、なんか変なごっついステップドリルみたいなのが刺さって入りこもうとしたのを、シュネーが防いでくれてたの。仮称ドリルはリソース強奪して消滅させたし、奪ったリソースでほつれは補修したから、当面は平気」

 呆れ顔で発見当時の様子を語るシャキヤール。

 ステップドリル?と首を傾げた兄妹に、円錐に螺旋を切ったような形のドリルを図示してやるセルファムフィーズ。


「主神よ、あんた確か自分の眼が届く範囲にしたいつってこの世界最小サイズにしたろうに、見えてなかったのか」

 太陽神が呆れ顔で主神を見やる。


「まあこれまで殆ど、隠棲してたからねえ。あと、思ったより世界の範囲が増えてた。世界って育つのよね、すっかり忘れてたけど……」

 溜息をつくシャキヤール。ケスレルが世界が育つ、という言葉に反応してキラキラ目で主神を見上げているのに、気付いているのか、どうなのか。


「……なんだこのかわいいの。ってガチの子供なのこれ?百年どころか二十年くらいしか生きてなくね?」

 呆れ顔から、一転怪訝な顔になるシュラクトネルーゲ。


「い、一応ヒトとしての成年は過ぎてるよ……」

 古参の神様から見たらまあ子供みたいなもんだろうけどさ。と、ちょっと拗ねたような声で答えるケスレル。


「正直今のほうが子供っぽいとこ出まくってるけど、それがかわいいからね、しょうがないね」

 妹の方は平常進行でどうでもいいことを言い出している。月に来てからというもの、彼女は重度のブラコンをすっかり隠さなくなっているので、他の月勢は完全にスルーしている。


「そっちの嬢ちゃんは見た目は色んな意味で似てるのに、なんかスレてんな……?」

 初見であるがゆえに、怪訝顔から戻ってこないシュラクトネルーゲ。但しこの言葉には誰も反応しなかった。

 見えている地雷は踏んではいけないのだ、という者が大半である。

 兄だけは、周囲が余りにその件をスルーするせいで、妹の実態をあまり把握していないという罠があったりする。


――――――――――

やっぱこういうときのドリルはステップですよドリドリ。

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