小ネタ詰め合わせ

1話分の文字数に至りそうもなかったのでニコイチです。


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・仕事風景


 月の、穏やかな一日。

 マーナガルムのふかふかの毛皮に埋もれるように凭れているセルファムフィーズ、その膝の上に抱え込まれて、狼の尻尾が毛布のように被せられているケスレル。

 三人揃って眠っているように見える、これが実は彼らの仕事風景だ。

 大体の仕事は、仮想空間でやってしまうのが彼ら流であるので、身体は基本休息状態にしてしまっている。

 実際そのほうが都市統括AIなども利用しやすいから捗るのだとセルファムフィーズは言うし、少年も賛同するのだが。


 女性陣には、正直不評だ。主に、別に抱っこまでしなくたっていいじゃないか?という部分が。

 とはいえ少年本人が特に気にしていないようなので、全員その件について口を挟むことは諦めている。


 シャキヤールは仮想空間に干渉などということも容易にできるので、時々話に混ざりにいっているが、龍の姫とその巫女は直接参入する手段が今の所ない。

 巫女のほうは稀にシャキヤールが連れていくこともないではないのだが、そうすると、龍の姫が仲間外れだと拗ねる。


「そうは言うけど、きみ仮想空間環境に微塵も適応できないからさあ」

 本日も、戻ってきたら、皆の姫ちゃんがすっかり拗ねていたので、困った顔になるシャキヤール。

「あたし経由でも意見飛ばせないのは想定外だったわよね……」

 こちらも困り顔の、龍の巫女。


 巫女に心話は飛ばせるのに、仮想空間になると弾かれる謎体質。


「……もしかして、都市管理AIに弾かれてるとかない?」

 恐る恐るといった様子で訊ねる少年。

 心当たりは、ないでもないのだ。彼女の属性のひとつ、乾いた雷霆。まあ、究極に小規模なそれは、静電気と呼ばれ、機械の大敵であるからして。

「……あー……」

 遠い目になるセルファムフィーズ。どうやら、思い当たる節が、ないでもないらしい。


 そういや、あのAIって割とふざけた、悪戯を極度に好む人格設定だったなあ、などと、遠い目の美青年を見て思い出す一同。

 月の管理補助AIとして管理内容を設定しなおして以来、そのふざけっぷりは鳴りを潜めていたので、それを知っていたものも、これまでその事実をすっかり忘れていたのだが。


「あのAIの人格設定のおおもとって?ちょっとフェイさんっぽさはあると前から思ってるけど」

 実はその辺の詳しい事情は知らない少年が首を傾げる。


「まあ、それも正解ですけれど……一周回って究極大元はそこの創世神様ですが何か。ちゃん付けするほうですけど」

 そういえば相棒とその妹には教えてなかったなあ、と思いつつも、平然とした顔で言いぬけようとするセルファムフィーズ。


「え、何そのセレクト控えめに言って最悪じゃない?」

 この中で、ちゃん付けのほうがどのくらいヤバいかを一番把握してないはずの巫女がうへえ、と顔をしかめる。


「そういえば、そんなこと聞いたわねえ」

 龍の姫は以前この管理AIの実態については聞かされて知っているはずだが、これもなんだか嫌そうな顔。


「あー……ちゃんのほうかあ……」

 まさかの、真似られた本人までそれはいかん、という顔になっているのは、如何なものか。

 天然愉快犯、『シャキヤちゃん』、そう言われてみれば、月が出来てからは本体に近い人格が出ずっぱりで、すっかりご無沙汰である。



 まあ結局、管理AIからは、いくらなんでも管理の仕事はふざけてはやらないし、そういう設定は流石にしていないとの回答しか得られなかったのだが。

 純粋に彼女自身と機械との相性が悪いだけで、それ以外の理由はないのだそうだ。

 それでも絶妙に疑惑の目が行くあたり、業が深い。 






 ・分体


 新しく月神として権能を得て、随分経つけれど、ケスレルはいまだに自分の分体を創れない。

 いや、創ることはできるのだ。


 壊すことが、できない。


 分体なんてものは、そもそも一時的に使用して、あとは消滅させてリソースに戻すのが基本の使い方だ。

 超長期で使用していたのなんて、創世神シャキヤールと古神時代のセルファムフィーズくらいなものだ。

 それですら、途中で色々手を入れたり、シャキヤールなどはちょいちょい創りなおしたりしている。

 余談になるが、現在のセルファムフィーズは、神格復活のさいに、もと分体だったものを本体としてこっそり創りなおしている。


 作ったものはきちんと始末しなさい、と言われても、できないものは、できないのだ。

 性根が優しい少年ではあるが、愛着が湧いて壊しがたい、というのともちょっと違う。


 そもそも、壊し方が、判らない。


 お試しで、と言いつつ、うっかり二体ほど創ってしまって、持て余しているところで、流石にシャキヤールがコレは変だと気が付いた。

 腐っても創世神、本来見ることができない他者の権能くらい、この世界の存在でありさえすれば、いくらでもチェックできる、のだが。


 その顔が、なんともいえない、疑問の塊とでもいう表情に変わった。


「……ねえ、この子、壊すほうの権能マイナスついてんだけど?どゆこと?」

 マイナス?と首を傾げる一同。


「マイナス……確かにそりゃ、壊すほうの才能はないって、前に誰かに言われた気はするけど、マイナスなんて、あるの……?」

 本人は随分とショックを受けている様子。


「まあ、結構無理やり、力技で昇神させたのも確かだけど、マイナスになる要素なんてあったっけ?」

 妹のほうが首を傾げる。いや確かにお兄ちゃん、作るのと直すのばっかり得意だったとは思うけど、などと呟いている。


「いや、あのね、普通マイナスとか、ないのよ?人間ならともかく、神様の権能ってそういうもんじゃない、はず、なんだけどなあ?」

 自分の世界のものではあるが、流石にこんなことは想定していません、とシャキヤールが小さくお手上げのポーズをとる。


(別に主に壊す才がなかったとて、我が破壊部分は受け持つから問題なかろう。ほれ、このように)

 最初に創った、明らかに何か出来が違うというか、様子がおかしい方を、誰かが止める間もなく、どうやってか瞬時にひと呑みにしてしまったのは、マーナガルム。


「あっ、マーくんだめ、ペッしなさいペッ」

(誰がマー君じゃ!あ、だが、いかん、これはいかん、主を喰らったような、嫌な気分が)

「あっ食べちゃダメだよ、それは別でなんとかするから、君が昔を思い出すような、そんなことしないで」


 兄妹はそんなふうに説得しようとはしたものの、結局、食べ終わってしまったものはどうにもならず、少年神と神喰らいの神狼が、同じところにストレス性の脱毛症を患うという、まったく神らしからぬオチがついた。


 終始無言を貫いていたセルファムフィーズが、己のうなじの上辺りを気にしているのも、全員が見てしまっていたわけだが、そちらは黙秘を貫かれたので、抜けたかどうかは不明のままだ。



 結局、ケスレルが分体を作成することは、創世神ジャッジで禁止事項にされた。

 マイナス事項の原因は、結局謎のままだ。脱毛症のほうは数日で治った。

 ……仮にも神とその眷属なのに、数日もかかった、というべきであろうか。


 マーナガルムがひと吞みにしてしまったほうは、流石に引っ張り出すことも、もうできなかったので、そのまま諦めた。

 もう一体は、見た目から寿命から何から、一切合切を普通の人間のように偽装して、地上に放流することにした。

 無責任に見える行為だが、何せここの面子がうっかり手をかけると、それが分体であれど、神殺し、などという、全く有難くない称号が付いてしまうのだというのだから、仕方ない。


 いや、この世界を出ない分には、称号なんぞに意味はないから、付いたところで実はどうでもいいのではあるが、それでも気分的に嫌だ、というのが全員一致の意見である。

 マーナガルムは神喰らいの称号を既に得ているから、上書きすらされないのだが、こちらももう脱毛症は御免だ、と不貞腐れている。


 まあ、流石に地上であれが神の分体なんて気付くものはないだろう。なんたって、現状の見た目はごく普通の少年だし。


「寿命も全部偽装っていうか、書き換えしたから、あの子成長するんだね。どうなるかな」

 創った本人は、のほほんとそんなことを言っているが、果たして。



 ちなみに妹のほうは、分体作成自体に興味を示さなかった。

 創るのも壊すのも特に問題なくできるとは思うが、めんどくさい、そうだ。


 結局、趣味の旅に出る時は、いつも本体で降りるケスレルである。

 一緒に降りないときのセルファムフィーズが、にこにこと迎えの要請を待っている姿が、平常進行ではあるが気色悪い、とは女性陣の共通の感想であるが、面と向かって本人に言う勇気のあるものは、いないらしい。


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