番外 としのはじめの


……ここは、どこだ?


確か、いつものように天幕で妹と一緒に毛布にくるまって寝た覚えはある。いつも通り妹が先にすうすう寝息をたてていて、それを聞いてるうちに自分も眠った、はずなのだが。



気が付いたら、なんだか見たこともない部屋にいた。

木の柱の間に土を塗り均した壁自体は町で見たことがある形式に思えたが、柱は天井までも真っすぐで滑らか、壁の色は落ち着いた草の葉の、いや春告げ鳥の羽根の灰緑。

天井には柱と同じつややかな木材で格子が組まれ、そこからぶら下がった四角い、見たこともない器具からまるく放たれる明るい光が部屋全体を照らしている。

壁の一方には窪んだ部分があって、木でできた棚と、紙と思しき何かで作られた飾り物がぶら下がっており、その手前には、これまた見たこともない、白い扁平な丸形のなにかを積んだ飾り。一番下は木の台に薄い紙?でできた飾りが敷かれ、一番上には柑子のようなものが載っている。

床は植物を編んで作った茣蓙を更に精緻にしたような敷物で覆われ、自分はその上に薄い四角いクッションを敷いて、座らされているのだが。

ひとしきり部屋の確認をしてから気が付いたが、自分自身も見たことない服を着せられているじゃないか。

思わず立ち上がりたくなったが、何故か体は動かない。


と、


「おっまたせー!女神さまの自作おせちだぞ!!!」


という能天気な声と共に、窪んだ壁のあったのとは反対方向の壁だろうと思っていた場所がぱあん!と派手な音を立てて開いた。


「こら、襖を足であけちゃだめでしょう」

「だって両手塞がってますしおすし!」


にぎやかに入ってきたのは銀髪の少女と金髪の青年。

ふたりとも、自分が着せられているのと同じ系統の衣装だ。

長い髪をやや雑に結いあげた少女のそれは空の色に華やかな、見たこともない花模様の縫い取られた、長い袖の衣に金と朱の帯、男性のほうは髪は後ろでひとつにくくり、自分が着せられているのとほぼ同じらしき、黒と灰色と白で地味に抑えられた配色の衣装。

あれ、この人たち、どこかで見たような、そうじゃないよう……な?


そう思うのと裏腹に、体は勝手に動くのだ。


「え、えーと。おめでとうございます、でいいんだっけ?んでおせちって何……?」


「はいはいあけおめー!おせちは私の郷里の正月の伝統料理!こんなんだけど私極東の出だからね、って君まだ地理は教わってなかったごめん☆」


朗らかに笑いながら少女が答える。


「君は食べられないものはないはずだから聞いてないけど、妹ちゃんはちゃんと確認しないとだからこっちで預かってた!はいどうぞ、もう入っていいよ!」


声とともに。


今度は後ろから建具の擦れる音。


振り向いたら、背後もどうやら紙の貼られた戸であったようで、少女の着ているのと似た意匠の、こちらは朱色の濃淡に金糸銀糸で雲や縁起物の縫い取りの衣装に濃紺の帯を締めた妹がのぞき込んだところだった。


なんだこれかわいいな?いやうちの妹はいつもかわいいけども!





と、思ったところではたりと目が覚めた。

いつもの天幕の天井が見えたところで、夢を見ていたのだと認識する。


あれ、どんな夢だったっけ。なんか妹が割り増しでかわいかった気がするけど。

そう思いながら傍らの妹を見る。いつもどおりかわいい寝顔で寝息を立てていたので安心して毛布をかぶりなおす。


あっという間に、夢で見た何かはどこかに消えてしまったが、もともと夢はあまり覚えていないほうなので、気にもしなかった。



としのはじめの夢 おしまい


―――


本編だと正月祝うのが人外ちゃんちだけだったんです……

というわけで夢ネタでした。振袖の描写がしてみたかっただけ。

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