第2話

「あれ日向ちゃん、またきたの」

いつものように公園のベンチで煙草をふかしながらそんなことをいう。

白髪に黒のスウェット。如何にもなこの人は和水(なごみ)さんと言う。

「まぁ...来ますよ」

「ははーんさては俺の事好きだな」

「寝言は寝ていってください。ついでにゴミ箱にでも入っててください」

「なんか辛辣じゃん...」

辛辣にもなる。

この人に貸した煙草の代金をまだ返して貰ってないのだから。

大の大人が学生に煙草代をせびるなんて情けない話だ。


「そういえばあの、猫ちゃんはどうしたんですか?」

「猫?あぁネコね」

「猫にネコって名前をつけてるんですか?」

「かわいいだろ?ネコ」

「どんなネーミングセンスですか...」

「冗談だよ。なー?ジゴロ」

ジゴロと呼ばれた猫ちゃんはニャーと気だるげそうに鳴いて、和水さんをあしらっていた。

やっぱり酷いネーミングセンスだと思う。猫にそんな名前をつけるなんて。


どちらかと言うと和水さんの方がその名前は合っているのではないだろうか。


「今、失礼なことを考えてたな」

「そんなことは、ないです」

「言いよどむなよ!」

「良いツッコミですね」

と私はにこやかに笑顔をつくる。


「やめろ。圧をかけてくるな」

「返さないからじゃないですか、お金」

やっぱりこの人は無職なんじゃないだろうか。


「日向ちゃん」

と真剣な声色で私の肩をつかむ。

えっ?え、ちょ



「もうちょい待って欲しい」

真剣な声色で延長を申し出てくる年上の男性。


少しばかり腹が立ったので私は和水さんの太ももに軽い蹴りを入れておいた。

声もあげずに地に倒れ伏せる成人男性。


「はぁまぁいつでもいいですよ」

なんて私は何時ものようにそう告げて、公園を後にしようと足を進める。

ここのところ学校のある日は放課後にいつも、この公園に来ていた。

勿論取り立ての為だ。

それ以外に私がここに来る理由はない。たまたま通学路にあるだけで。


こほん。一体誰に言い訳をしているのだろうか。


「日向ちゃん、ちょっとまって」

背後から和水さんの声。

「なんですか?」

振り返った私の手をとって、和水さんはソッとお金を手渡した。


「これで返済完了」

「そうですね。全くはじめからそうしてください」

言いながら、私は、少しだけ。

寂しいな

なんて。思ってもいて。

「日向ちゃんが遊びに来てくれて楽しかったよ、ははは」

そんな風に笑う和水さんをもうみれないのかとも、思ったりもしていた。



そして手渡された小銭を数えてみると見事に足りない。

何度数えても足りない。


はっと和水さんの方を見る。

キョトンとした表情でこちらを見ている。

「あの、足りませんけど」

「いやーすまん。持ち合わせがなくてな」

「紛らわしい返しかたをしないでください!!」


「まぁまぁそんなに怒らないでよ」

「怒ってません」

「そう?」

「そうです」


「まぁ俺も日向ちゃんと話すの好きだしさ。また来なよ。まだ返済終わってないからさ」

なんていって和水さんは私の頭をソッと撫でた。

ホッとしたでしょ?と見透かしたように、私がここに来る簡単な理由を残して。だらしのない毎日を過ごしているくせに、格好をつけていて。


ほっとした自分にも腹が立って、私はもう一度。

和水さんの太ももを蹴り飛ばした。

公園にうつ伏せで倒れ伏せる成人男性を置いて、私は早足に帰路につく。


何故だか顔が少しばかりあつい。

どうやら今日は気温が高いみたいだ。

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白髪無職と黒髪JKの日常 暇人音H型 @nukotarosu

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