白髪無職と黒髪JKの日常
暇人音H型
第1話
猫のように気まぐれそうな雰囲気のあの人は今日も公園のベンチで煙草を咥えている。
学校へ向かう通学路であの人を横目で流し見るのがルーティーンとなっている。
駅から15分ほどのところの中堅校。
私は制服の可愛さに惹かれ、地元から遠いこの学校を選んだ。
親元を離れてのはじめての一人暮らし。
入学してからの1ヶ月はそれはもう早いもので、すぐに過ぎていった。
毎日通る通学路には色々な人達がいる。同じ駅で降りるサラリーマンや他校の生徒、車道を走る通勤中の車とか。
そんな中で一際目立っているのが、件のあの人だ。
白い髪ボサボサの髪に、黒のスウェット。ポケットはいつも膨らんでいて、煙草の箱が見え隠れしている。
そして整った顔立ち。神様は不平等だと思う。
年は随分と若く見えるが二十歳くらいだろうか?
私は何故かあの人が妙に気になっていた。
決して私は面食いではない。
見かける場所は毎日違うのだけれど、大抵はベンチに座ってぼーっとしていることが多いようだった。
もしくはコンビニの前で煙草をふかしているか。忙しない朝の通勤、通学時間に猫のようにのびのびと過ごしている。正直羨ましくも思う。
もしかしなくても、多分、働いていないのではないだろうか。
なんて思ったりしていた。
けれどまぁ私から話かけることは、これから先もないだろう。
よく見かける人で終わっていくだろう。うん。
そう思っていたのだけど。
そうはならなかった。
ある朝の通学時間。
名前も知らないあの人は捨て猫を拾っていたのだ。段ボール箱から大事そうに両手で包み込み、子猫を抱き上げていた。
猫が猫を拾っている、なんて思った。
印象だけで話したこともない人を語るのはよくないけれど、私にはあの人が猫の世話をしている姿は想像できなかった。
けれども実際、そんなことは私には関係のないことな訳で。
学校へと早足で向かった。
授業中も昼休みも、何故かわからないが私はあの人が妙に気がかりだった。
本当に猫の世話なんて出来るのだろうか、と。他意はない。
放課後、私は少しゆっくりと自宅へと向かっていた。決してあの人を探しているわけではないけれど。
何となくである。
公園の隅の方に見慣れたスウェットがいた。ゴミ箱からスウェットが生えている。頭からゴミ箱に突っ込んでいる。上半身はゴミ箱の中、見えているのは下半身だけだ。
「あの、大丈夫ですか?」
自分でも驚いたのだけど、私は声をかけていた。もちろんゴミ箱から飛び出した下半身にだ。
「...誰?それはまぁいいか」
気だるげそうな声がゴミ箱の底から聞こえてくる。
「見ての通り抜けないんだ、ひっぱってくれ」
声をかけた手前、放置するわけにもいかず。
「取り敢えずゴミ箱倒しますね」
「ゆっくり頼む」
ゆっくりとゴミ箱を横に倒したかったのだが、私の筋力では無理だった。
大きな音を立ててゴミ箱は横倒しとなり、無気力な叫び声が公園に響くことになった。
「あのさ、ゆっくり頼むっていったじゃん」
「それは、すみません」
「まぁ出れたからいいんだけどさ。ありがとうね」
「はい」
「どっかで会ったことあったっけ?」
「いえ、初対面ですよ」
「...そんなことはないでしょーよ」
「何でそう思うんですか?」
「ゴミ箱から下半身だけ出してる見知らぬ人間に声をかける奴は、あんまりいないだろって話」
「なんであんなことになってたんですか?」
「あー、こいつが入り込んじゃってゴミ箱に。出そうとしたらあーなって。出るのも面倒になって、ぼーっとな」
服の隙間から今朝見かけた猫が顔をだす。
「そうですか。えっと私はこれで失礼します」
「なんだもーいっちゃうの」
「そうですね、まぁもう会うこともないでしょうし」
今日はたまたま。ほんの気まぐれで。
「でもここ君の通学路でしょ。毎朝めっちゃ見てくるじゃん」
「見てません!!」
「えっ。あー勘違いか、なんかすまん」
「困りますよ、勘違い」
「でも今日とかガッツリ目があったけど」
「知りませんよ」
「はいはい、そういうことにしときますよー」
やれやれといったように頭をかいている。
わたしはぜんぜんみてないのに、なんでこんなことをいうのだろうか。
「和水(なごみ)、俺の名前。今日はありがとねー」
「えと、私は日向(ひなた)です」
「それじゃあね」
そういって和水さんはふらふらと公園を後にした。
私はその後ろ姿を見送っていた。
すると和水さんは急に振り返って、こちらに引き返してきた。
「日向ちゃん、その、後生なんだけど煙草探すの手伝ってくれない?」
「え?は?」
「ゴミ箱に突っ込んだときに一箱落としたみたいで、ポケットになかった」
結局30分ほど探したのですが、見つからず。私は和水さんへ煙草代を貸して(恐らく返ってくることはないだろう)あげた。
なんて最低な出会いだろうか。
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