六歳年上のお姉ちゃん系ロリが出迎えてくれる

「ただいま~」


 父が生きていた時から、僕は家に帰ると『ただいま』と言うタイプだった。


 高校受験真っ最中である、僕と同級生の人たちは『ただいま』と言わない人もいるらしいが、僕からしてみれば信じられないことだ。


「葉月くんおかえり! おやつ食べる? 勉強する? それともわ・た・し?」

「勉強しようかな。しばらく部屋からでてこないから、好きにしてていいよ」

「ちょっと、冗談には乗ってよ……!」


 『おやつ食べる? 勉強する? それともわ・た・し?』と、身長百五十センチにも満たない六歳年上のお姉ちゃん系ロリに言われる方の身にもなってほしい。


 もし冗談に乗って『それじゃあ琴葉さんで』なんて答えたら即刻逮捕ルート間違いなしだ。


「ごめんね。それじゃあ、またあとで」

「はーい」




 葉月くんが自室の扉を閉めた。


 もしかしたら葉月くんは私がいなくても良いのかもしれないけれど、私はそれでもこの家が好きだった。


 葉月くんは私のことを拒絶しないし、日中リビングでだらだらしていることもない。それが心地よくて、いつまでもここにいたいって思ってしまって、葉月くんを甘やかしてしまう。


「それより、夕食の準備しないと」


 雑念を振り払って食材を用意し、作業に入るが――


 葉月くんのことが思い浮かんでしまう。


 わからないところないかな、とか、疲れていないかな、とか。


 いけないいけない、とまた首を横に振る。


 疲れているのは私の方なのかもしれない。家事に集中しなければ、と目の前に食材と向き合い、下準備を始める。


「琴葉さん、今夕食作ってる?」

「は、葉月くん!? えっと、うん。今作ってるけど……?」

「そっか、琴葉さんありがとう。……琴葉さん、身長足りる?」


 背伸びしながら料理の準備をしていた私を見てそう思ったのだろう。確かに、高さが足りなくて不便だと思うことはままある。


「まあ、ちょっと足りないって思うことはあるよ」

「じゃあ、明日にでも踏み台を買ってくるね」

「いや、いいよ。私が自分で買ってくるから」


 お世話になっているのは私の方なのに葉月くんに買わせるというのは少し恩知らずのような気がして、自分で買うことを宣言する。


「でも、琴葉さんも忙しいでしょ?」

「だからって受験生に買い物させるような人間じゃないよ。ここは私の人間性を保つためだと思って、どうか!」


 忙しい受験生である葉月くんに対して、私は比較的暇な大学生だ。


「ええ、でもなあ……」

「そうだ、せっかくだし一緒に買いに行こう!」


 口論というか言い合いと言うか譲り合いの末、今度踏み台を一緒に買いに行くということで二人の間で合意した。


 私は葉月くんと踏み台を買いに行くのが楽しみで、料理を作るのを少しだけ失敗してしまった。

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