洞窟編 2 俺とキノコの少女

第20話

俺はエデンと短い間過ごした広い空間を抜けると、薄暗く広い空間に提灯のように大きな松明で照らされている、広い階段があった。横幅ははっきりとわからないが、おそらくエデンくらいありそうだ。

 虫とコケだらけの大きな壁にはいろいろな壁画が一面に彫られてあった。エデンが書いていたものと似ているが、良く見ると文字が違っていたりしていた。

 

 階段の段差は大きく、座ってから飛び下りないと転げて足を怪我しそうであった。

 

 身体も丈夫なのでこのままわざと転げ落ちてしまおうとしたが、足を空中に浮かべると血の気が引き、体が前に進まないので結局一段ずつ行くことにした。


「よっ……~~ッ!」


 時折、広い足裏全体に電撃が走ったように衝撃が走る。そのむずむず感が嫌でつい鳥肌が立ってしまい、言葉にならない声を出しながら、むずむずを発散させようと足をコツコツと叩く。

 

 痛みの感覚がないだけでこんなに体に違和感や不快感があるものなのか。

 改めてなんか不思議だなぁ。と俺は自分の身体をペタペタ触りながらふと思った。


 30段もの階段を降りると、前に見えていた大きな道が、近くなり禍々しい迫力を醸し出していた。

 想像以上に大きく、見上げると首の後ろが痛くなりそうだ。


「スゲーな……どんな仕組みで出来たんだ」


 見上げると俺は、あまりの壮大さに感動のため息をついた。


 自然の力だとしても、こんな洞窟あったら現代じゃあ大々的にニュースになっているか、世界遺産の特集番組に取り上げられるだろう、と思うほどミステリアスな雰囲気があった。

 だがここは異世界だ。

 きっとこんな不思議な光景なんてざらにあるのだろう。


 目の前を見ると、松明もない完全な暗闇が広がる。何か強い生物がいそうな恐怖と、旅行気分な楽しさが同時に心の中にあった。


 唾を飲み込む。


 新天地に行くときは、前世でも緊張していたような気がする。例えば、大学の校門の前とか。

 だが、前に進まなければ。

 たとえ、何があっても。


「俺は地上に出るんだ!」


 そう口に出して宣言し、俺は一歩進み始めた。


 調子がいいのは、この時だけだった。


 ――――――――


 あれから2,3日。

 敵もいない水も魔法で出すしかないで俺の体は骨と皮だけになっていた。

 

 メインの食事は、壁に引っ付いてるクソ程まずい虫だ。カメムシのようで、一口噛む度に煎餅のような食感と共に、草を生で食べたような苦く臭い味が広がっていく。そしてあとからくる舌のピリ辛さと気持ち悪さに吐き気を催した。

 飲み込めそうにもなく、最初の方は何度も吐き出しそうになったが、なんとか耐えた。


 だが、食べるものがこれしかない。

 ダンジョンなら敵がうじゃうじゃいるのを想像もしていたが、予想外に一匹たりともいなかった。

 正確にはいないわけではなく、敵の気配に近づくと、俺に怖じ気づいたのかそそくさと逃げるのだ。

 辞典で調べると、魔力量によって敵の強さが計れて、ダンジョンの魔物たちはそれを基準にして生きているという。


 トラップをしかけるも、なんと俺の触れたものでも魔力がついてしまうため、1日待っても何も引っ掛かることはなかった。

 

 俺自身の魔力を隠す、とかした方が良いのかもしれないが、魔力を隠している間はずっと軽いジョギングをしているようになり、とても疲れやすくなるのでなるべくなら控えたい。


 持っている杖をつきながら、どうしようかと俺は考えた。


「逃げるなんて卑怯だろぉ!」


 俺は目の前に広がる暗闇に向かってそう愚痴った。



 その後洞窟をさまよっていると、やっと目の前に敵があらわれた。

 大きく丸い目が特徴的なトカゲで、こちらを見ると舌なめずりをしてニイッと威嚇のように睨み付けながら笑ってきた。


「調子に乗ってんじゃねぇしゃあ!」

「いや乗ってねぇよ」

「しゃべ……まぁいいしゃあ!」


 臨戦態勢に入ったトカゲは、殺意がそんなにないように思えた。

 こちらをおちょくって来ているのだろうか?


 トカゲは「シィッ!」と息の音をさせると、曲がりながら走ってきた。

 そして俺に近づくたびにしっぽをゴツゴツとぶつけてくる。先端が尖った岩になっていて、それでいつも攻撃しているようだ。


「ハァ……ハァ……どうだ、早いだろ?」

「え」


 そして元の定位置に戻ると、肩で息をするほど疲れていながらも、その自慢をやめることはなかった。

 だが口ではいろいろと言っているが、体は正直なようで、たまに足の力が抜けて体制が崩れていた。

 たぶん無理したのだろう。

 俺は近づき、回復魔法をかけてやった。

 トカゲは逃げようとするが、やはり体がおかしくてそんなに早く走れなさそうだ。


「大丈夫か?」

「心配するな、これもいつもの事、って何を……」

「俺は殺意のないやつは自分の手で殺さないっていう主義なんだ。」

「変なの」


 トカゲは回復するや否や、俺の事を攻撃してきたが、さっきと同じで俺は無傷だった。


「……すみませんでした」

「謝るのか」

「調子出ないしゃぁ!もう!だけど次はこうは行かないしゃあ!」


 そう言ってトカゲは泣きながら逃げ去っていった。


 なんだったんだろアイツ。



 エサはまだあの虫だけでいいか。

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