第22話 狂ってくる頭の中

 そんなこともありながら、あっという間にまた3日が経った。

 合計5日ほどたったのだろうが、腹時計だよりなので正確な時間はわからない。


 だが今日も味のない魔法の水を飲みながら虫を食べる生活を送っていた。もうこの日常に慣れてしまった自分が怖い。


 洞窟の生活はとても辛いものだ。


 ひたすらどこかを目指して歩いているのかわからない。それに、地面に細かい石がまばらにあり、歩く度足の裏の肉球に尖った石が刺さって少し痛い。

 俺が踏んで痛みを感じるということは、普通の人ならとてつもなく痛いのだろうな。と、人間が悶える様子を想像する。

 意外とレゴを踏んで叫んで悶えるのもアニメの表現としてあっているのだろうか。


 半分現実逃避をしながらも、俺は生き抜いていた。


 敵を捜しても、気配が逃げていくのでその姿は見えない。その気配を追いかける気力もなく、俺のお腹は未だに腹ペコだ。

  

 壁に張り付いている小さな虫しか抵抗なく食べれるものがないので、その苦い味を食べている内にに口が慣れてしまって、虫の中でもおいしさの区別を感じるようになってきてしまっていた。

 不遇なことだ。

 

 例えば、カメムシみたいな臭い虫や、カマキリのような肉がない虫は苦く不味いが、豊富な栄養がある。良薬は口に苦しというように、苦いほど体にいい。栄養ドリンク並に栄養があるのだ。

 しかし、バッタやテントウムシなどの肉が多い虫や、蟻などの小さい虫は、毒が入っていない限り比較的甘みがあり旨く感じるが、あまり栄養がない。

 

 それに岩や鉱石を削り取り一緒に食べると、食紅や甘味料をを全部ごっちゃ混ぜにした化学物質的な味になって口の中が面白い。もちろん美味しくはない。

 申し訳程度の味変だ。

 だけどコレで気分がだいぶ変わる。雑草が菜っ葉になったくらいだが。


 ただし虫が苦すぎて不味いのは変わりないが、どれにせよ、これだけで少しはマシになったのだから続けて行くしかない。だって食べるものがないのだから。

 正確にはあるが、俺の身勝手なある理由でそれはできなかった。


 もちろん一時期は敵を殺そうかとはじめの頃考えたが、相手の声が聞こえることによって俺の無意識に宿っている道徳が体を食い止めていた。その敵にも家族がいて、仲間がいて、そして血が通っている。

 苦しむ姿を見るのは人間の心を強く持つ俺にはできないことであった。


 それに反して、食欲より道徳を優先してしまう俺がとても憎かった。目の前に肉があるのに、なんでそれを最優先で求めないのか。 


 死ぬ気のあるマジの敵が出てくればいいのだが、理想はなかなか現れない。


 たまに現れたとしても、勝負をして満足し逃げ帰ってしまう変なドラゴンや、あのトカゲのように作戦も何も考えず突っ込んできたりして逃げ帰っていくばかりだ。

 疲弊したりするとつい回復魔法をかけてしまうため、回復魔法だけは一流になっていくばかり。


 今思えば、なぜあのトカゲを逃がしたのだろうか。

 あのときは慈悲でもなんもなかった気がする。ただの気まぐれのような、不思議な気持ちだ。


 またある時にドラゴンを捕まえて食べようとしたときもあったが、やはり声が聞こえることによって親近感が沸き、内なる道徳が働いて手が動かず、気がついたら食べようとしたドラゴンも、隙をつかれて逃げてしまった。

 それからドラゴンの気配が一切感じなくなった。

 ドラゴンは人よりいっそうに臆病らしく、俺のことを強い存在としてみんなで共有して避けているのだろう。


「ドラゴンなら勇ましく炎でも吐いてこいよ!!」


 そう愚痴るが、またそれも虚空に響くだけであった。

 

 それ以外の目の前に出てくる生物は、俺が口を開けて話しかけるとすぐに驚き、土煙を上げながら意味がわからないほど遠くまで逃げていく。

 俺のことを怖いのはわかるが、いじめのようで泣き寝入りするしかなかった。モンスター同士がしゃべるっていけないことなのだろうか。

 

 予想だが、そいつらは俺の話を聞く前に、ガァッ、というドラゴンとしての鳴き声を聞いて生存本能が働き、逃げるいるのだろう。

 

 ……ってことはあのトカゲだいぶ強かった?

 勇敢に立ち向かってきたし、それなりの技術もある。エデンしか見ていなかったせいで、あのトカゲの強さを見誤っていたのか。

 すまんトカゲ。と心の中で謝っておいた。


 アイツは俺に挑める時点で群れのボス級なのだろう。

 そう考えるとトカゲに興味が出てきた。また会ったら話したいな。


 いや、話しかけたら逃げられるか。

 


 

 またもや1日が経過しようとしていた。

 俺は流石にお腹と背中がくっつきそうなほど腹ペコになり、たまたまあった変な透明な鉱石をむしゃむしゃと硬いせんべいのように食べていた。


 だがそれは久々の美味しい水で、俺はなきそうになりながらそれを食べていた。


 それは水を含んだ石英のような鉱石で、食べると中から水が溢れてくる。

 夢中で食べて口いっぱいに鉱石を入れると、つい溢れ出してしまって体中がびしょびしょになってしまった。体を思いっきり振り、水滴を払い落とそうとしたが、取れないためそのままにしておいた。

 ちまちまと食べるのが一番良い。と気付き、少し噛みちぎってそれを噛み砕き、一気にかぶりつきたい欲を我慢していた。


 食べ終わってから少しすると、だんだんと体中が元気になってきた。

 やはりきちんとした水分を確保するだけでも特別違うのだろうか?

 



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