第16話 バイバイ

 エデンはあれから2日狂ったように敵を拷問しては殺していた。

 いや、拷問と言うよりかは一方的な殺しと言った方がわかりやすいだろう。


 突然のことで、何が起きているのかはわからない。

 一体何があったんだと心当たりを数多く考えたが、わからなかった。


 俺も実際、爪を剥がされたが、痛みを耐えて叫ばずにあえて真顔で余裕の表情を取っていると、じきにつまんなそうな顔をしてあきらめられた。

 それ以来やられることはなかったが、たまに来る視線がキツく、体を絞められるような殺気を帯びていた。


 その目はまるで、殺人鬼のようだ。

 

 その光景や苦しむ声に少しは慣れたある日、俺はふと聞いてみることにした。


「エデン……なんでそんなに友人のことを根に持ってるのさ?」


 返事はない。


「やめたら?」


 そういったとたん、エデンは床を殴りクレーターを作る。

 冷静に冷静に……と心をやっと落ち着かせられた。


「それはダメだ!そうしたらあのクソを許したようなもんだろ!?」

「だとしても、もうその「クソ」はもう居ない。……正直、今のエデンはおかしいぞ」

「……居ない?なにいってるんだ?」

「前自分で殺しただろ?ずっとそんなことするんなら……いっそ出ていっちまおうk」

「ああぁあ!?!?」


 急にエデンは怒鳴り声を上げた。

 出ていくと脅されるようにいったから怒っているのだろう。さすがの俺でも心臓が飛び出るほどびびった。

 体が凍りつくように固まったが、すぐに溶けた。


「お前はここで一生過ごすんだよ!私と一緒に永遠の友として、いや家族として!」

「それも良いが、さすがに二人で100年くらいずっと同じ空間は退屈すぎる」

「ひとりで300年生きてきた寂しさを、もう私は感じてるんだよ!お前も同じ目に逢うんだよ!それにさっき大切な友人も失ったのに、何でお前まで失わなくちゃなんだ?!……まさかお前まで私を裏切る気なのか?」

「そういうわけじゃ……」

 

 俺はそこで返答がわからなくなり、黙り込んでしまう。

 正直、どうしようもないときには裏切るつもりであった。

 

 エデンは泣きそうな目をしていた。だがそれに本人は気づいていないようだった。

 眉間にしわがより、口からは怒りで泡を吹いている。今のエデンは完全なる「ケモノ」だ。

 これは早々に出ていかないと、そのうち逆鱗に触れて殺されそうだ。


 裏切るということになってしまうが、ヤンデレ状態のエデンに捕まり、最悪の場合永遠に拷問をされそうになっている今の状況を考えると、これは裏切る1択だろう。


 さすがに永遠となると俺でも耐えられない。3時間とかだったらワンチャン行けるかなくらいは行けるのだが、終わりが見えないとなると……うぅ。


 俺はエデンを指差し、彼女に宣言する。


「お前はもう……エデンじゃない!」

「はぁ!?」


 するとエデンは子供みたいに泣きながら地団駄を踏んだ。

 その大きな足で地面を強く踏むごとに、震度5ほどの地震が起きる。

 俺は体制を崩しそうになったが、なんとか立て直すことができた。

 

「私はエデン!私はエデンなのぉ!大切な母から名付けられた唯一無二の個性!否定しないで!」

「……もういい」


 俺は彼女にしびれを切らした。

 これ以上ここにいたら精神崩壊する。と命の危機を感じたのだ。


 攻撃してこないのが唯一エデン「らしさ」を感じただけで、後のエデンは友人とやらと共にどこかへ出かけてしまったようだ。


 出口に向かい、俺はゆっくりと大きく揺れる地面を歩き始める。

 上から石が雨のように降ってくる中で、1歩、1歩とその足に全くの抵抗はなかった。

 今までエデンに育ててもらえた恩など、どこかに行ってしまったのだ。


 もうエデンはいないのだから。


 やがて、俺は出口の前へとついた。

 そこで振り向き、仁王立ちでエデンだったものに向かって言った。


「俺はで」


 カキン、と金属音が弾ける。


 俺の腕の毛と背中の羽が一部切れ、落っこちる。

 痛みはあるが、それもささくれ程度だ。


 エデンから俺の真横に、刃になった1本の手が伸びてきているのが見えた。攻撃が一瞬過ぎて何が起こったのかわからず、俺は戸惑ったがすぐに冷静さを取り戻した。


 彼女の不満が爆発したのだ。

 平穏を装うために、腰に手を当てた。


「……なんのつもり?」

「行くなら殺しあってから行け。今まで実力隠してることくらいわかってるんだよ。」

「は?……俺は鍛練から普段の筋トレまで全力でやったさ。それ以外に?」

「実力っていうのは、魔法の方だ!だったらなんでお前の爪はもう修復をはじめてる?回復魔法じゃあ回復しないはずだ!このチート転生ヤロウめ!」

「さあ。俺でもこのからだの仕組みはわかっていない。」 

「何???」


 本当のことだ。

 体のことは頑張ってきたが、魔法のことは何一つ教わっちゃいない。

 急に「なんで魔法が得意なんだよ」と言われても、何も答えようがない。

 すべて、本当のことなんだ。


 俺は目を合わせ、エデンとは別の大蜘蛛だと思い込むようにした。エデンだと考えるとどうも気分が悪くなる。


 同時に、俺の目と心にも何か炎のようなものが宿ったような気がした。

 心臓と目からたくさんの暖かい物が流れてくる。


 血じゃないが、それは青色をしていた。


 《スキル〈魔力操作〉〈魔力吸収〉〈辞典〉〈脳拡張〉を手に入れました。》


 ――遅れちゃった。テヘ


 謎の声と共に俺の体に力が漲ってくる。

 テヘってなんだよテヘって。


 体の中に暖かい液体をたっぷり注がれてパンパンに膨らんでいる俺の体は、これまで以上に熱く燃えるようになっていた。同時に気分がよくなり、テンションも上がってきた。


「おい!何かいえよ!」


 大蜘蛛が何かを言っていることに気がついた。

 すっかり耳に意識がいっていなかったようで、何もかも音を遮断していたのだろう。その音圧で目が覚め、一瞬何が起こったのかわからなかった。

 聞いていなかったので、もう一回教えてくれ。と言おうとしたが、なんとなく嫌だったので、わざとらしく怒ったように睨んで答えた。

 

 なんだかエデンの存在が若干小さくなったように見える。

  

「何?」

「勝負するか、しないか、どっちか選べ。」

「……する。」


 意外と答えが口からすっとでた。決して頷かず、下を向いて少しの間待った。


 5日前に戻りたい。とも思わないほど俺はエデンに、いやエデンだったもの、大蜘蛛に希望を失った。

 もう、怪物にしか見えないでいた。


 いや、元からそうだったのかもしれない。幻覚だったのかも知れない。


 俺が答えを出すと、エデンはゆっくりと下がっていった。

 俺が顔を上げると、彼女からの怒りはもう感じなかった。その代わり、倒れてくる大樹のように大きな殺意を感じた。

 その殺意を押し返すように、俺は大蜘蛛と睨み合う。


「さようなら!親愛なる息子よ!」

「さようなら、精神崩壊ボス蜘蛛モンスター!」


 戦いが始まった。


ーーーーーーーーーー

あとがき


ーー急展開だけど……まぁ面白いしいいか、どうなるかな?


ある神様は言った。


ーー展開が速すぎる、もっと伸ばせば良いだろう?


またある神様は言った。

だがその神たちに飽きられることはなかった。


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